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放火で逮捕されたらどうなる?刑罰の重さと判例まとめ

放火は重大な犯罪のひとつであり、逮捕されれば厳しい刑罰が科される可能性があります。しかし、放火と一言でいっても、現住建造物への放火から自宅の焼却まで、その内容によって刑の重さは大きく異なります。

本記事では、放火で逮捕された場合の一連の流れから、科される刑罰の種類、そして過去の判例までを詳しく解説します。中学生でも理解できるよう、難しい言葉は使わずにわかりやすく解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。

万が一、家族や知人が放火容疑で逮捕された場合にも参考になる内容です。

目次

放火で逮捕されたらどのような流れになるのか?

放火で逮捕されると、いくつかの法的なステップを経て裁判や処分が決まります。ここではその一連の流れについて見ていきましょう。

現行犯逮捕されるか後日逮捕されるか

放火は非常に危険な犯罪であるため、現行犯で見つかればすぐに逮捕されることがほとんどです。火をつけた直後に警察に通報されるケースが多く、その場で取り押さえられることも珍しくありません。

一方で、証拠がそろった後に後日逮捕されるケースもあります。監視カメラの映像や目撃証言を元に、数日後に自宅へ警察が来ることもあるのです。

逮捕された場合は、警察署で取り調べを受けることになります。

どちらの場合でも、逮捕後すぐに家族に連絡が行かない場合もあるので、注意が必要です。

警察による取り調べと最長72時間の拘束

警察に逮捕された後、まずは取り調べが行われます。この時点で最大72時間、警察署に拘束されることになります。

取り調べでは、放火を行った動機や手段、その他の関係者の有無などについて詳しく聞かれます。弁護士と面会することも可能ですが、初動が遅れると不利になることがあります。

供述内容や証拠によっては、検察に送致されることになります。

この段階での供述は非常に重要で、後の裁判で証拠として使われることもあるため慎重な対応が求められます。

検察から勾留請求される場合(最長23日間拘束)

警察の取り調べが終わると、事件は検察へ送られます。検察はさらに捜査が必要と判断した場合、「勾留請求」を行います。

勾留が認められると、最長で23日間、身柄が拘束される可能性がありますこれは10日間+延長13日間という仕組みになっており、裁判所の判断により延長されます。

この期間中も取り調べは続き、証拠や供述がそろえば起訴されることになります。

弁護士がついていれば、勾留決定に対して不服申し立て(準抗告)を行うことも可能です。

起訴されれば裁判へ、不起訴なら釈放か前科なしもあり

勾留期間が終わると、検察は「起訴」するか「不起訴」にするかを判断します。起訴されれば裁判が始まり、有罪になれば刑罰が科されます

逆に、不起訴となれば釈放され、前科がつかない場合もありますただし、事件の記録は残るため、今後の生活に影響を及ぼす可能性もあります。

また、被害者との示談が成立した場合や初犯で反省の態度が見られる場合などは、不起訴処分になる可能性が高まります。

不起訴になったからといって無罪が確定するわけではありませんが、社会復帰のチャンスが広がるという意味で重要な分岐点です。

放火による逮捕で科される刑罰はどれくらい重いのか?

放火事件で逮捕された場合、対象となる建物や行為の内容によって、科される刑罰の重さが大きく異なります。ここでは法律で定められている主な罪状と、その刑罰について解説します。

現住建造物等放火罪:死刑・無期または5年以上の懲役

人が住んでいる家屋や人がいる可能性のある建物に対して放火した場合、「現住建造物等放火罪」に該当します。

この罪は非常に重く、死刑、無期懲役、または5年以上の懲役が科される可能性があります。火災によって人命が失われる危険があるため、極めて厳しい処罰が用意されています。

また、人がいないと思っていたが実際には在宅中だった場合でも、この罪に該当することがあります。

刑の上限が死刑であることからも、この罪の重大性がわかるのではないでしょうか?

非現住建造物等放火罪:2年以上の懲役(自己所有は6ヶ月〜7年)

人が住んでいない倉庫や無人の建物などへの放火は、「非現住建造物等放火罪」に分類されます。

他人の所有物に対する場合は2年以上の懲役刑となっており、現住建造物に比べるとやや軽い刑罰ですが、それでも重罪に分類されます。

一方で、自分が所有している建物であっても放火すれば、6ヶ月以上7年以下の懲役刑が科されることがあります。

自分の建物であるからといって無罪にはならず、公共の安全を脅かす行為として処罰されます。

建造物以外への放火:1年以上10年以下(自己所有なら1年以下または罰金)

建物ではないゴミ、車両、森林、田畑などを燃やす行為も、放火罪の対象です。

他人の所有物を放火した場合、1年以上10年以下の懲役刑が科されます。火災の広がり方によっては、さらに重い刑が下されることもあります。

自分の所有物に火をつけた場合でも、火の勢いが近隣に影響を及ぼす可能性があるなら1年以下の懲役、または罰金刑に問われることがあります。

火の取り扱いには細心の注意が必要です。

未遂でも本罪扱い、法定刑は既遂と同等

放火の場合、実際に燃え広がらなくても、「火をつけようとした」だけで未遂罪が成立します。

未遂であっても既遂と同様の刑罰が法定されており、非常に厳しい対応が取られるのが特徴です。

これは、火災が拡大した場合の危険性が非常に高いためであり、未然に重大事故を防ぐ目的があります。

放火の疑いで逮捕された場合、証拠の状況によっては未遂でも起訴され、重い刑罰が科されることも十分に考えられます。

放火で逮捕された場合の刑罰に影響するポイントとは?

放火で逮捕されたとしても、すべての事件で同じ刑罰が下るわけではありません。裁判で考慮される要素によって刑の重さが変わってくることがあります。

どこに放火したか(人がいる建物かどうか)

放火の対象となった場所がどのような施設かによって、罪の重さは大きく変わります。

例えば、人が住んでいる家に放火すれば死刑を含む厳罰が科されますが、空き地にあるゴミなどであれば、比較的軽い罰則にとどまる可能性があります。

火災によって人命を脅かす危険性があるかどうかは、刑の重さを判断するうえで極めて重要な要素です。

放火の対象の性質は、裁判官の判断に大きく影響する点です。

放火が未遂だったか、予備段階だったか

放火行為が完了していたか、途中で止まったかによっても刑の重さは異なります。

前述のように、未遂であっても既遂と同じ刑罰が科されることもありますが、判決においては情状酌量の要素として考慮されることがあります。

また、火をつける準備をしていた段階(予備)で逮捕された場合は、「放火予備罪」として扱われ、2年以下の懲役となります。

このように、実際に火をつけたかどうかが量刑判断に大きく影響します。

示談・被害者の処罰感情と自首の有無

被害者との間で示談が成立しているか、また被害者が処罰を望んでいない場合、処分が軽くなることがあります

特に民事的な損害賠償が済んでいる、誠意ある謝罪がなされているといった場合、不起訴や執行猶予が認められる可能性も出てきます。

また、自ら警察に出頭する「自首」は刑を軽くする重要な要素であり、反省の姿勢として評価されます。

早期の示談交渉や自首は、将来的な処分を左右する大きなポイントです。

動機や重ねて放火した習慣性の有無

放火の動機が悪質であったり、過去にも同様の犯罪歴がある場合、習慣性があると判断されて重い刑罰が科される可能性が高くなります

例えば、「ストレス解消」や「興味本位」といった身勝手な理由は、裁判で不利に働くことが多いです。

一方で、精神的な病気や強いストレスなどが背景にある場合は、医師の診断などによって情状が認められることもあります。

裁判所は動機や行動の背景に着目し、再犯のリスクを重視して量刑を決定します。

実際に放火で逮捕された人の刑罰と判例まとめ

放火事件はニュースなどでも報じられることが多く、重大な刑罰が科される事例も少なくありません。ここでは、実際に起きた放火事件の判例を紹介し、どのような量刑が下されたのかを解説します。

電車内放火+殺人未遂:懲役23年(2023年判決)

2021年に発生した京王線の電車内放火事件では、被告人が乗客の多い車内で放火し、多くの人を巻き込む危険性がありました。

この事件では、殺意をもって人命を狙ったとして、放火罪と殺人未遂罪が併合され、懲役23年の重い判決が下されました。

裁判所は、被告人が模倣犯として計画的に行動した点や、多数の乗客の命を危険にさらした点を厳しく非難しました。

公共の場での放火は、被害が広範囲に及ぶため、極めて重い刑罰が科される可能性があるといえるでしょう。

大阪・パチンコ店放火殺人:死者5名の重大事例

2009年、大阪市内のパチンコ店で発生した放火事件では、放火によって建物が炎上し、5名の命が失われました

この事件で逮捕された被告人は、放火殺人罪として起訴され、最終的に死刑判決が確定しました。

裁判所は、営利目的で多数の人命を奪った重大性を重視し、「社会に与える影響も極めて大きい」と述べています。

人命が関わる放火事件では、死刑を含む最も重い刑罰が適用されることがある点に注意が必要です。

その他、被害軽微や示談ありの事例では執行猶予も

すべての放火事件が重罰になるわけではありません。被害が軽微であり、被害者と示談が成立しているようなケースでは、執行猶予付きの判決が出ることもあります。

例えば、自宅敷地内のゴミに火をつけたが火災には至らなかった事件では、懲役1年・執行猶予3年といった判決が出ることもあります。

このように、放火の状況、被害規模、反省の度合いなどによって量刑は大きく変動します。

実際の事件例を知ることで、自分や家族が関係してしまった場合の見通しが立てやすくなるでしょう。

未遂でも放火で逮捕されたら刑罰はどうなるのか?

放火は「火をつけようとしただけ」でも未遂罪として処罰されます。ここでは、未遂の場合に科される刑罰について詳しく解説します。

未遂でも現住建造物等放火罪に問われる(法定刑は既遂と同じ)

放火未遂でも、現住建造物に火をつけようとした場合は、既遂と同じ現住建造物等放火罪が適用されます。

つまり、死刑、無期懲役、または5年以上の懲役という重い法定刑が適用対象となります。

これは、「未然に防げたから被害が少なかった」としても、行為自体の危険性が極めて高いと見なされるからです。

放火未遂だからといって安心はできず、裁判で重く処罰される可能性は十分にあります。

裁判所の裁量で刑が少し軽くなることもある

とはいえ、未遂であることが「情状」として考慮され、実際の判決では刑期が軽くなることもあります。

例えば、懲役5年以上が法定刑であっても、懲役5年6ヶ月などの比較的軽めの刑が下される場合もあります。

また、初犯であることや反省の態度が強いことなども量刑判断に影響を与えます。

法律上は既遂と同じ刑罰でも、裁判官の裁量で多少の減軽が行われる可能性があるのです。

放火の予備行為(道具準備など)は2年以下の懲役対象

放火未遂よりさらに手前の段階である「予備行為」も、犯罪として処罰されます。

例えば、ガソリンを用意したり、火をつけるための道具を隠し持っていたりしただけでも、「放火予備罪」として逮捕されることがあります。

この場合、2年以下の懲役が科される可能性があります。

準備の段階でも罪に問われるということは、それだけ放火が重大な犯罪であるという裏付けでもあるといえるでしょう。

放火で逮捕された未成年の場合の刑罰の特徴とは?

未成年が放火で逮捕された場合は、大人と同じ刑事裁判にはならず、少年法に基づいて処分が決定されます。未成年者の更生を重視する観点から、処罰よりも教育的措置が優先されるのが特徴です。

少年事件として扱われ、少年院送致の可能性

20歳未満の未成年者が放火で逮捕された場合、その事件は「少年事件」として扱われます。

警察によって逮捕された後、家庭裁判所に送致され、そこで教育的観点から処分が判断されます。

重大な放火事件や再犯の可能性がある場合は、少年院送致という措置が取られる可能性があります

少年院では生活習慣や人間関係の改善などを図り、更生を目指した教育が行われます。

被害者と示談すれば処分軽減を得やすい

少年事件においても、被害者との間で示談が成立すれば、より軽い処分が下される可能性があります

家庭裁判所では、被害者の処罰感情や加害少年の反省の度合いを重視します。

示談や謝罪が誠実に行われていれば、保護観察や訓戒など、比較的軽い措置で済むこともあります。

早期の対応と保護者の関与が処分軽減のカギを握るといえるでしょう。

精神的問題や家庭環境によるケアが重視される

未成年者による放火は、家庭内の問題や心理的なストレスなどが原因となっていることも少なくありません。

家庭裁判所では、精神的な問題や家庭環境に関する調査が行われ、必要に応じて医療や福祉の支援も検討されます

単に処罰するのではなく、再犯防止と社会復帰に向けた支援が重視されるのが少年事件の特徴です。

一人の子どもの人生をどう立て直すかが、裁判所の大きな課題なのです。

逮捕→鑑別→家庭裁判所へ送致される流れ

未成年が放火で逮捕された場合、まずは警察の取り調べを受けた後、少年鑑別所に送致されます

そこで生活態度や性格、家庭環境などの調査が行われ、調査結果をもとに、家庭裁判所で処分が決定されます

調査期間は最長で4週間程度ですが、必要に応じて短縮されることもあります。

最終的には、保護観察・少年院送致・不処分などの判断が下される流れとなっています。

放火・逮捕・刑罰についてのよくある質問

放火事件に関する質問は多岐にわたります。ここでは、特に多く寄せられる疑問についてQ&A形式でわかりやすく解説します。

失火罪との違いは?(うっかり火事は50万円以下罰金)

「失火罪」とは、うっかり火を出してしまった場合の罪を指します。たとえば、寝たばこやコンロの不始末などが該当します。

失火罪の法定刑は50万円以下の罰金と比較的軽く、放火とは明確に区別されます

意図的に火をつけた場合は放火罪として処罰されますが、過失による火災であれば失火罪にとどまることが多いです。

しかし、重大な過失(重過失)があれば、別途責任が問われることもあります。

重ねて放火したら併合罪でさらに重くなる?

複数回にわたって放火行為を行った場合、「併合罪」として扱われ、刑罰が加重されることがあります

例えば、複数の建物に放火した場合は、それぞれの罪が独立してカウントされ、最終的な判決では刑期が長くなる可能性があります

また、再犯の場合には情状酌量の余地が少なくなり、執行猶予がつかなくなることもあるため注意が必要です。

繰り返しの犯行は非常に不利な情状とされます。

不起訴や執行猶予をもらえるケースは?

放火事件でも、被害が非常に軽微であり、示談が成立している場合などは、不起訴処分が下されることがあります

また、初犯で反省の態度が顕著な場合は、起訴されたとしても執行猶予付きの判決となることがあります。

これは裁判官が「社会内での更生が可能」と判断したときに下される措置です。

専門家のサポートを受けて、早期に謝罪と示談を進めることが大切です。

家族が放火して逮捕されたらどうすれば?

家族が放火で逮捕された場合は、まず弁護士に相談することが重要です。

早期に弁護人を立てることで、接見(面会)を通じて事件の状況を確認し、今後の対応を整えることができます

また、示談交渉や反省文の提出なども、弁護士の指導のもとで行うとスムーズに進みます。

家族が支えとなり、精神的にも物理的にも更生に向けた支援をすることが求められます。

まとめ|放火で逮捕されたらどうなる?刑罰の重さと判例を知っておこう

放火は非常に重い犯罪として扱われており、現住建造物であれば死刑を含む厳罰、非現住や物への放火でも懲役刑が科されるなど、法律上でも極めて厳しく処罰される対象です。

また、放火未遂や予備段階でも罪に問われることがあるため、「火をつけようとしただけ」であっても、油断はできません。

刑罰の重さには、放火の場所、動機、被害者との示談、反省の有無など、様々な要素が影響します。被害が小さくても、反省が見られなければ執行猶予が付かないこともあるのが現実です。

さらに、実際の判例を見ても、被害の大きさや行動の計画性によって量刑は大きく変動していることがわかります。

未成年者であっても、少年事件として責任を問われ、場合によっては少年院送致となることもあります。

「火を使う」という行為には、大きな責任が伴うということを忘れてはいけません。たとえ軽い気持ちであっても、放火は一瞬で人生を大きく狂わせる行為です。

家族や知人が関わってしまった場合でも、落ち着いて対応し、早期に弁護士に相談することが最善の選択肢となるでしょう。

放火という重大犯罪について正しい知識を持ち、もしもの時に備えて冷静に行動できるようにしておくことが大切です。