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正当防衛はどこから認められる?急迫性・必要性・相当性を徹底解説

自分の身を守るためにとった行動が、果たして「正当防衛」と認められるのかどうか。その判断は非常に重要です。正当防衛が成立するには「急迫性」「必要性」「相当性」という3つの要件が必要です。

この記事では、「正当防衛はどこから認められるのか?」という疑問に答えるために、それぞれの要件の意味や具体的な判断基準、さらには実際のケーススタディまで詳しく解説します。自分や大切な人を守るためにも、正当防衛の正しい理解を深めましょう。

法律知識がなくても理解できるよう、やさしい言葉で解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

正当防衛はどこから認められるのか?急迫性・必要性・相当性の意味とは

まずは、正当防衛が認められるための基本的な要件である「急迫性」「必要性」「相当性」とは何かについて、順番に説明していきます。

急迫性とは法益侵害が差し迫っている状態

急迫性とは、現在進行中またはまさに起ころうとしている危険な状況のことを指します。たとえば、突然誰かに殴られそうになったり、刃物を持って襲いかかられたりしたような場面が該当します。

このとき、危険がすでに終わっていたり、まだ先の話だったりすれば、正当防衛の急迫性は認められません。つまり、防衛行為が「今すぐに対応しないと命や身体が危ない」というような場面でなければならないのです。

したがって、「いつか攻撃されるかもしれないから先に攻撃した」といった先制攻撃的な行動は、急迫性がないとされ、正当防衛としては認められません。

急迫性は、正当防衛の最初のハードルです。このハードルを越えなければ、そもそも防衛行為は正当なものとは認められないでしょう。

必要性とは避けられない防衛手段を選ぶこと

必要性とは、他の方法で危険を回避することができない状況であることを意味します。たとえば、その場から逃げることができるのに攻撃を選んだ場合、必要性が否定される可能性があります。

正当防衛においては、「その場で最も穏便で確実な手段を選んだかどうか」が重要になります。相手の攻撃を止めるために、もっと軽い方法があったのに、わざわざ危険な手段をとった場合は、必要性がないとされるのです。

つまり、防衛行動を起こす前に、逃げたり助けを呼んだりするなど、他に選択肢があったのかをしっかり検討されるということです。

このように、必要性の判断は「他の選択肢がなかったか?」という観点からされます。

相当性とは防衛行為が最低限の範囲であること

相当性は、防衛行為が危険を防ぐために必要な「最低限の力」だったかを問う要件です。たとえば、相手が素手で殴ってきたときに、いきなり刃物で反撃した場合、それは相当性を欠くと判断される可能性があります。

つまり、「やりすぎていないか?」が相当性のポイントになります。過剰に反撃すれば、それは「過剰防衛」とされ、正当防衛が認められなくなる恐れがあるのです。

相当性の判断は、状況や行為の内容に大きく左右されます。同じ行動でも、相手の年齢、性別、攻撃手段などによっては、評価が変わることも少なくありません。

相手との力関係や使用した道具の危険性などを冷静に見て、適切な対応であったかが判断されるのです。

正当防衛がどこから成立するのかを判断する急迫性のポイント

急迫性があるかどうかは、正当防衛の最初の関門です。このセクションでは、具体的にどのような状況で急迫性が認められるかを解説します。

現在進行中か差し迫っているか

正当防衛が認められるのは、危険が「現在進行中」または「今にも起こりそう」なときだけです。つまり、攻撃が実際に始まっているか、すぐに始まりそうな状態である必要があります。

たとえば、相手がナイフを持って自分に近づいてきている場面では、明らかに危険が差し迫っているといえるでしょう。このような状況で身を守る行動をとった場合、急迫性があると認定されやすくなります。

一方で、まだ言い争っている段階や、単ににらまれているだけのような場合は、急迫性がないとされる可能性があります。あくまで客観的に見て「危険が切迫している」と判断されるかがカギになります。

将来予測でも急迫性に含まれる場合がある

原則として正当防衛は「今この瞬間」に対するものですが、例外的に「差し迫った危険」が明らかであれば、将来的な予測でも急迫性が認められることがあります

たとえば、長期間ストーカー被害にあっており、実際に危害を加えられるリスクが高いと判断されたケースなどが該当します。こうした場合には、相手の行動や過去の言動などから、実際に被害が起こる危険性が高いと評価されることがあります。

ただし、これらは非常に慎重に判断されます。被害の可能性が高く、かつ防衛行動が合理的である必要があります。警察や弁護士に相談することも重要です。

侵害が終了した後では急迫性は認められない

攻撃が終わった後に反撃した場合、それは「正当防衛」ではなく「報復」とみなされる可能性が高いです。正当防衛はあくまでその場の危険に対する応急的な対応だからです。

たとえば、相手に殴られた後に、相手が逃げようとしている場面で背後から殴り返した場合、それは正当防衛としては認められにくいでしょう。攻撃の「終了後」に行動したとされるからです。

したがって、防衛行動のタイミングも重要なポイントになります。「今すぐ防がなければ危険だ」といえる瞬間に行動しているかが急迫性のカギを握るのです。

正当防衛がどこから認められるかに関係する必要性の基準とは

次に、防衛行動が必要だったと認められる条件、「必要性」について深掘りしていきましょう。必要性の判断には、逃げ道があるかどうかや、他の手段で回避できたかが重視されます。

逃げるなど他の手段がない状況

正当防衛が認められるには、「他に逃げる方法がない」「助けを呼ぶこともできない」など、やむを得ない状況であることが必要です。

たとえば、狭い部屋に閉じ込められた状態で相手が攻撃してきた場合、逃げ場がありません。このような状況では、防衛行動の必要性が高く評価されるでしょう。

逆に、広い空間で複数の人がいるような場所であれば、逃げる選択肢があったと判断され、正当防衛が否定される場合もあります。

このように、周囲の状況や物理的な空間も必要性の判断材料になるのです。

余裕があれば必要性は否定される

たとえ相手に危険な意図があったとしても、冷静に行動できる余裕があるなら、防衛行動の必要性は否定される傾向にあります。

たとえば、相手が遠くにいてすぐに攻撃してこない状況や、近くに逃げ道がある場合には、「攻撃ではなく回避を選ぶべきだった」と判断されることがあります。

また、相手がひるんでいる、逃げようとしているなどの状況で反撃をすれば、それは「やりすぎ」だとみなされることもあるのです。

正当防衛はあくまで切迫した危険に対するやむを得ない対処であるため、冷静な判断力が重要になります。

過剰な反撃は必要性を欠く

防衛行動が過剰であった場合、「必要性」が否定されることがあります。相手の攻撃に対して、明らかに過剰な手段を用いた場合、正当防衛とは認められない可能性が高いです。

たとえば、軽く突き飛ばされた程度で、相手を激しく殴り返したり、刃物で反撃したりすれば、「そこまでやる必要があったのか?」という点で問題になります。

防衛行動は「危険を防ぐために必要な範囲」にとどめる必要があります。怒りや恐怖で反撃が行き過ぎてしまうと、正当防衛が成立しにくくなるので注意が必要です。

必要性は「他の方法がなかったか」を冷静に見られるため、感情的にならず、状況をしっかり判断することが求められます。

正当防衛の成立に必要な相当性とは?どこから逸脱すると認められないのか

相当性は正当防衛の中でも特に判断が難しい要素です。このセクションでは、相手との力関係や使用する手段のバランス、過剰防衛との境界線について解説します。

武器対等の原則が重視される

「武器対等の原則」とは、攻撃してくる相手と同程度の力で反撃するべきという考え方です。つまり、素手で攻撃された場合には素手、またはそれに準じた力で反撃するのが妥当だとされます。

例えば、相手が素手で殴ってきたのに、こちらがナイフで反撃した場合、それは「やりすぎ」と判断され、相当性を欠くとされる可能性が高いです。

もちろん、力の差や状況によってはある程度の差が認められることもありますが、それでも基本は「バランスのとれた行動」が求められます。

過剰な武器の使用や、不必要に大きな力を加える行動は、正当防衛とは認められにくくなります。

必要最小限度の行為であること

防衛行為はあくまで相手の攻撃を止めるために必要な最小限度の力であることが前提です。攻撃が止まったあとも、執拗に攻撃を続けてしまえば、それは正当防衛の範囲を超える行為になります。

たとえば、相手が一度殴ってきたがすぐに退いた場面で、こちらがその後も何度も殴り返すような行動は、必要最小限の範囲を超えており、相当性が否定されます。

つまり、防衛の目的は「相手をやりこめること」ではなく「自分の身を守ること」だという原点に立ち返る必要があります。

暴力を使う場合でも、相手の攻撃を止めるために必要な最小限の力にとどめることが求められるのです。

過剰防衛となるボーダーライン

相当性を超えた防衛行為は「過剰防衛」とされ、刑事責任を問われる可能性が出てきます。過剰防衛のボーダーラインは状況に応じて異なりますが、一般的には「防衛目的を逸脱した行為」とされるかどうかがポイントです。

たとえば、相手の攻撃が収まりかけていたにも関わらず、強い反撃を行った場合や、危険な道具を使って応戦した場合などは、過剰防衛の疑いがあります。

もちろん、その場の恐怖や混乱が考慮されて刑が軽くなるケースもありますが、それでも正当防衛として完全に免責されることは難しいです。

このように、正当防衛と過剰防衛の線引きは非常にデリケートであり、判断が分かれることも多いのです。

正当防衛がどこから認められるかの具体例|急迫性・必要性・相当性の判断基準

ここでは、正当防衛が認められるかどうかについて、実際の例を通して理解を深めましょう。急迫性・必要性・相当性の観点から、それぞれのケースを検討していきます。

素手攻撃に刃物反撃:相当性を欠く例

たとえば、相手が素手で殴ってきた場面で、反撃として刃物を使って相手を刺してしまったとしましょう。この場合、相手の攻撃に比して反撃があまりに危険すぎるため、相当性を欠くと判断される可能性が高いです。

仮に急迫性や必要性があったとしても、相手の攻撃と防衛行動のバランスが取れていなければ、正当防衛としては認められません。

このようなケースでは、正当防衛が否定され、過剰防衛または傷害罪として刑事責任が問われることもあります。

そのため、どんなに危険を感じたとしても、反撃の手段が行き過ぎていないかは冷静に見極める必要があります。

バッグひったくりへの取り戻し行動:成立しやすい例

道でバッグをひったくられたとき、とっさに取り戻そうとして犯人を追いかけた場合、行動は急迫性・必要性・相当性すべての要件を満たす可能性が高いです。

ひったくりは財産権の侵害にあたり、現に侵害が続いている状況であるため急迫性があります。また、バッグを取り戻す以外に有効な手段がなければ必要性も認められるでしょう。

相手に過度な暴力を振るわなければ相当性も満たされるため、正当防衛の成立が見込まれます。

このように、財産や身の安全を守る行動でも、冷静に要件を満たすよう心がけることが重要です。

強盗への抵抗で重傷:ケースバイケースの判断

相手が凶器を持って襲ってきた強盗事件で、抵抗した結果相手に重傷を負わせた場合でも、正当防衛として認められることがあります。

このような状況では、相手の攻撃の危険度が非常に高いため、反撃がある程度激しくても相当性が認められる場合があるのです。

ただし、抵抗が必要以上に長時間続いたり、相手がすでに戦意を喪失しているにも関わらず攻撃を続けたような場合は、相当性が否定されることもあります。

そのため、正当防衛として成立するかは細かい事情によって左右される「ケースバイケース」なのです。

正当防衛と過剰防衛の違いはどこから?急迫性・必要性・相当性で比較

正当防衛と過剰防衛の違いは、どこにあるのでしょうか?それは、急迫性・必要性・相当性のどの要素を満たしているか、または逸脱しているかによって決まります。

急迫性は同じだが相当性が違いを生む

正当防衛と過剰防衛のどちらにも「急迫性」がある点は共通しています。つまり、どちらの場合でも「差し迫った危険」にさらされていたことは認められているのです。

違いが出るのは主に「相当性」の部分です。正当防衛は最低限の力で危険を回避しますが、過剰防衛は「やりすぎた」と判断されるほどの反撃になっているのです。

したがって、反撃の程度や使用した道具、攻撃が続いていた時間などが評価の分かれ目になります。

感情的にならず、落ち着いて行動することが、正当防衛として認められるためには重要です。

必要性があるかどうかで線引きされる

防衛行為を行う上で、「本当にそれしか手段がなかったのか?」という点は大きな判断材料になります。逃げる選択肢や、助けを求める手段があったのに反撃した場合、必要性がないと判断されます

過剰防衛になると、必要性が弱い、あるいはまったくないと評価されがちです。相手の攻撃に対して反射的に力を使ってしまった場合でも、他に選択肢があれば必要性を欠くとされることがあります。

つまり、「冷静に他の方法を取れたのではないか?」と問われるわけです。

正当防衛は、選択肢の中で最も妥当な方法であったかどうかも問われるのです。

相当性の超過が過剰防衛となる

相手が攻撃をやめようとしているのに、こちらがなお攻撃を続けたようなケースでは、防衛目的を超えて「報復」になってしまう可能性があり、過剰防衛と判断されます

相当性を超えるかどうかは、反撃の程度、継続時間、使った手段などが総合的に評価されます。

また、正当防衛と過剰防衛の違いは、法律上の評価だけでなく、刑罰の重さにも関わってきます。正当防衛であれば無罪になりますが、過剰防衛であれば、情状酌量はあるとしても刑事罰を受ける可能性があるのです。

「やりすぎないこと」が、正当防衛と認められるための絶対条件だといえるでしょう。

正当防衛のどこからが認められるかに関するよくある誤解と正しい理解

正当防衛については、一般の方の中でさまざまな誤解が存在します。ここでは、その代表的な誤解と、それに対する正しい理解を解説します。

事前準備は誤想防衛や先制攻撃と誤解されやすい

「危ないと思って先に殴った」「身を守るためにナイフを持ち歩いている」といった行動は、正当防衛ではなく「誤想防衛」や「先制攻撃」として扱われる可能性があります

相手が攻撃してくると信じたが実際には危険がなかった場合、それは「誤想防衛」と呼ばれます。これは場合によっては正当防衛として成立しないこともあります。

また、攻撃される前に行動を起こした場合は、「急迫性」がないと判断され、正当防衛とはされません。

あくまで「現実に起きている危険」に対応する行動であることが求められます。

逃げれば済むなら正当防衛は認められにくい

「その場から逃げることができたのに、反撃した」場合、正当防衛の必要性が否定される可能性が高いです。

つまり、身を守るために戦ったとしても、逃げ道があった場合は「やむを得なかった」とはいえないと判断されるのです。

正当防衛の必要性が認められるのは、あくまで逃げる手段や助けを呼ぶ方法がなかったときに限られます。

そのため、「反撃」することだけが正当防衛ではないという認識を持つことが重要です。

「武器対等」ルールの理解不足

多くの人が見落としがちなのが、相手との武器のバランスです。相手が素手である場合、自分が凶器を使ってしまうと「やりすぎ」になる可能性が高いです。

正当防衛とはいえ、反撃の手段が過激であれば相当性を欠くことになります。

つまり、武器を使うなら「それが本当に必要な状況だったのか」「相手とのバランスが取れていたのか」が判断されるのです。

日常的に護身用具を持ち歩いている人も、この点には十分な注意が必要です。

正当防衛がどこから認められるかを知って身を守るために|急迫性・必要性・相当性を理解しよう

正当防衛が認められるかどうかは、一瞬の判断にかかっています。だからこそ、事前に正しい知識を身につけておくことが自分を守る第一歩になります。

自分の置かれた状況を正確に判断する

どのような状況に置かれているかを冷静に見極める力が、正当防衛を成立させるために欠かせません

感情的になって反撃してしまえば、相手よりも自分が不利な立場に立たされてしまうこともあります。

現実の危険なのか、それとも勘違いなのか、まずは状況を客観的に判断する力を養いましょう。

特に公共の場では、周囲の目や証拠が判断材料になることもあるため、冷静さを失わないことが重要です。

逃げる判断の重要性

多くの場合、危険を回避するためには「逃げる」という選択肢が最も安全かつ正当な対応となります。正当防衛はあくまで最終手段であり、反撃することが最初に選ぶべき手段ではありません。

その場の状況に応じて、「逃げられるのか」「助けを呼べるのか」を冷静に判断することが、後のトラブルを防ぐ鍵となります。

実際、正当防衛が認められなかったケースの多くで、「逃げることができたのでは?」と判断されています。

安全に距離を取ることで、後の法律的な責任も回避できるのです。

過剰防衛を避けるための冷静な対応

正当防衛と過剰防衛の違いは、行動の冷静さにあるといっても過言ではありません。いざという時に冷静に対処する力が、正当防衛の成立を左右します。

そのためには、日頃から状況を分析する癖をつけたり、いざというときの行動パターンを頭の中でシミュレーションしておくことも有効です。

感情に任せて行動してしまうと、必要以上の攻撃になりかねません。結果として自分が加害者として扱われるリスクもあるのです。

したがって、正当防衛を成立させるためには、「何のための行動か」という目的意識と、その場に応じた最小限の行動が求められます。

まとめ|正当防衛はどこから認められる?急迫性・必要性・相当性を正しく理解しよう

正当防衛がどこから認められるのかを判断するには、「急迫性」「必要性」「相当性」の3つの要件を正しく理解することが不可欠です。

急迫性とは、今まさに危険が差し迫っている状況であること。過去の出来事や将来の予測だけでは成立しません。必要性とは、それ以外に自分の身を守る方法がない、やむを得ない状態であること。逃げられるのであれば反撃ではなく回避することが求められます。

相当性とは、相手の攻撃に対して反撃がバランスのとれたものであり、やりすぎていないこと。武器や力の使い方が大きく偏ると、過剰防衛とみなされる恐れがあります。

この記事で紹介したように、正当防衛は一瞬の判断に委ねられることが多いため、日頃から自分の行動を客観視し、冷静に判断する習慣を持つことが大切です。

「自分を守るための知識」として、正当防衛の3要件を理解し、いざという時に適切な行動が取れるよう備えておきましょう。