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国選弁護人の依頼方法とは?仕組みから費用・注意点まで徹底解説

刑事事件で逮捕されたとき、多くの人が不安に思うのが「弁護士をどうやって頼めばいいのか」という点です。特にお金がない場合、私選弁護人を雇うのは難しいでしょう。そんなときに利用できるのが「国選弁護人制度」です。

本記事では、国選弁護人の仕組みから、依頼の流れかかる費用、そして注意点までをわかりやすく解説します。中学生でも理解できるように簡単な言葉でまとめましたので、もしご家族や知り合いが突然逮捕されたときの参考にもなるでしょう。

「いつ依頼できるの?」「本当に無料なの?」「私選とどう違うの?」といった疑問も解消していきます。最後まで読めば、国選弁護人を依頼するときの全体像が理解できるはずです。

国選弁護人の依頼方法とは?仕組みをわかりやすく解説

まずは、国選弁護人制度がどういう仕組みなのかを知っておくことが大切です。

国選弁護人制度とは何か

国選弁護人制度とは、刑事事件で逮捕された人が、弁護士を雇うお金を持っていない場合に国が弁護士を選んでくれる制度です。つまり「弁護士を雇う資金がない人でも法律の専門家に守ってもらえる仕組み」です。

刑事裁判では被疑者・被告人の権利を守るために弁護士が必要不可欠です。弁護士がいなければ、取り調べで不利な供述をしてしまうこともあるでしょう。そこで国が一定条件を満たす人に弁護士を付ける制度を整えたのです。

なお、国選弁護人は「刑事事件」でのみ利用でき、交通違反の反則金や民事事件(離婚・借金など)では利用できません。この点は混同しやすいので注意しましょう。

弁護士は「弁護士会」を通じて割り当てられます。そのため、自分で特定の弁護士を指名することはできないのが特徴です。

誰が利用できるのか(資力の条件)

国選弁護人は誰でも利用できるわけではなく、資力の条件があります。具体的には「流動資産が50万円以下」であることが基準です。

流動資産とは、現金やすぐに換金できる預金などのことを指します。家や車などの資産は含まれません。つまり、貯金がある程度ある人は対象外となるケースもあるのです。

「収入が少ない=必ず利用できる」というわけではなく、あくまで手持ちのお金が基準になります。ここを誤解しないようにしましょう。

また、資力を証明するために裁判所や弁護士から確認を受ける場合もあります。その際に虚偽の申告をすれば、後でトラブルになる可能性もあるので注意が必要です。

被疑者国選/被告人国選の違い

国選弁護人には「被疑者国選」「被告人国選」の2種類があります。違いを整理しておきましょう。

被疑者国選弁護人は、逮捕・勾留されている段階でつく弁護士です。警察や検察の取り調べが中心の時期なので、供述内容や勾留延長への対応などを弁護士がサポートしてくれます。

被告人国選弁護人は、起訴されて裁判が始まる段階でつく弁護士です。この場合は裁判での弁護活動が中心になります。

つまり、事件のどの段階で国選弁護人を利用するかによって、呼び方と役割が変わるということです。どちらも重要なサポートですが、タイミングが異なる点を覚えておきましょう。

国選弁護人の依頼方法を知る前に押さえておくべき基本条件

依頼方法の詳細を知る前に、利用できる条件をしっかり押さえておくことが大切です。

資力は流動資産50万円以下であること

国選弁護人を依頼するには、流動資産50万円以下である必要があります。この基準は全国で統一されています。

例えば、現金が20万円、預金が15万円しかない場合は条件を満たしています。しかし、もし普通預金に100万円あるならば、国選弁護人の対象にはなりません。

なお、ローンや借金がある場合でも「流動資産が基準以下」であれば利用可能です。借金の多さは直接的な判断材料にはなりません。

つまり、国選弁護人を使えるかどうかは「今すぐ自由に使えるお金の額」で決まるのです。

依頼できるのは本人のみ(家族・友人は不可)

国選弁護人を依頼できるのは本人のみです。家族や友人が代わりに依頼することはできません。

これは「刑事手続きは被疑者・被告人本人の意思で進めるべき」という原則に基づいています。本人が希望して初めて弁護人がつけられるのです。

そのため、家族が「すぐに国選をつけてほしい」と裁判所にお願いしても受け付けてもらえません。本人が正式に希望を出す必要があります。

ただし、家族が私選弁護人を依頼することは可能です。この点が大きな違いといえるでしょう。

国選弁護人の依頼方法と申し込みのタイミングはいつ?

国選弁護人は、依頼できるタイミングが法律で決まっています。状況によって「被疑者国選」と「被告人国選」に分かれるため、その違いを理解することが重要です。

被疑者国選:勾留が決まったあとに申し出

被疑者国選は、逮捕後に勾留が決定した段階で依頼できる仕組みです。逮捕から最大72時間以内勾留されるかどうかが判断され、その時点で「国選弁護人を希望するか」と聞かれることになります。

つまり、逮捕直後には国選弁護人をつけることはできません。勾留が決まってから、初めて申請可能になります。

この段階で弁護士がつけば、取り調べ対応勾留延長への異議申し立てなどをサポートしてくれるため、非常に心強い存在となるでしょう。

ただし、申請を忘れたり希望を出さなかったりすると、弁護士がつかないまま取り調べが進んでしまいます。早めに意思を示すことが大切です。

被告人国選:起訴状のアンケートで依頼を希望

被告人国選は、起訴されたあとに利用できる仕組みです。このとき裁判所から「国選弁護人を希望するか」というアンケートのような書面が渡されます。

その書面に「希望する」と記入すれば、国選弁護人が自動的に割り当てられます。ここで希望を出さなければ、裁判は弁護士なしで進むことになりかねません。

刑事裁判は法律の知識がない人にとって不利になりやすいため、弁護士をつけるかどうかは重大な判断です。迷う必要はなく、希望するのが基本と考えた方がよいでしょう。

また、起訴後の手続きはスピードが早いため、記入を遅らせると防御の準備が不十分になる危険もあります。

タイミングの遅さによるデメリットとは

国選弁護人は便利な制度ですが、タイミングが遅いのが最大のデメリットです。被疑者国選では勾留が決まらなければ依頼できず、被告人国選起訴後でなければつきません。

そのため、逮捕直後から弁護士の助けを得たい場合には対応が遅く感じられるでしょう。特に、逮捕から勾留決定までの72時間は取り調べが集中する期間です。この間に適切なアドバイスを受けられないのは大きなリスクといえます。

「早期に弁護士が必要なら、私選弁護人を検討する」という選択肢もあるでしょう。費用はかかりますが、スピード対応という意味では非常に大きなメリットがあります。

結局のところ、国選は「最低限の権利を守るための仕組み」であり、スピードや選択の自由度を求めるなら私選に軍配が上がります。

国選弁護人の依頼方法にかかる費用は本当に無料?

国選弁護人は「無料で弁護士を頼める」とよく言われますが、実際には条件付きです。ここでは、どこまで無料で、どんな場合に費用が発生するのかを整理していきます。

弁護士の報酬は原則国が負担(無料)

まず、弁護士への報酬は国が負担するため原則無料です。つまり、依頼した本人が直接弁護士費用を払う必要はありません。

これは、資力のない人でも公平な裁判を受けられるようにするための仕組みです。もし弁護士費用まで本人負担にしてしまうと、弁護人をつけられる人とつけられない人の間に不公平が生じてしまうからです。

したがって、国選弁護人を頼むだけで高額な弁護士費用が発生することは基本的にありません。

ただし、例外もあるため、次の項目をよく理解しておきましょう。

実費・交通費などは裁判所判断で自己負担になることも

弁護士の報酬自体は国が負担しますが、裁判の進行に必要な実費交通費などが発生することがあります。

例えば、証人を呼ぶための旅費や、現場検証にかかる費用などがこれにあたります。これらは裁判所の判断で本人負担とされる場合があります。

もちろんすべての事件で実費が発生するわけではありませんが、まったく費用ゼロと断言するのは誤解につながるでしょう。

つまり、国選弁護人は「弁護士費用は無料」でも、「手続きに必要な経費は自己負担になる可能性がある」ということです。

示談金は弁護士費用には含まれず、自分で支払う必要あり

被害者がいる事件では、示談交渉が重要な役割を果たします。国選弁護人も示談交渉をしてくれますが、その際の示談金は当然ながら本人が支払う必要があります。

弁護士が立て替えてくれるわけではなく、国が肩代わりするわけでもありません。示談金はあくまで被害者に対する損害賠償の一種だからです。

もし示談金を用意できなければ、示談が成立せず量刑に影響する可能性があります。この点は国選弁護人を依頼しても変わらない現実です。

したがって「弁護士費用が無料でも、事件によっては出費が必要になる」と理解しておくのが正しいでしょう。

国選弁護人の依頼方法でよくある注意点とは

国選弁護人は便利ですが、いくつかの制約や注意点があります。ここでは特に多い誤解やリスクをまとめました。

弁護士をこちらで選ぶことはできない

国選弁護人は裁判所や弁護士会が割り当てるため、自分で弁護士を選ぶことはできません。これが私選弁護人との大きな違いです。

そのため「知識が豊富な人にお願いしたい」と思っても、自分の希望は通りません。担当になった弁護士が自分と相性が合うかどうかは運次第といえるでしょう。

ただし、弁護士は職務として依頼を引き受けるため、どの弁護士であっても基本的な活動はしっかり行います。この点は安心してよい部分です。

とはいえ「自分で信頼できる弁護士を選びたい」という人には物足りなく感じるかもしれません。

経験豊富でない場合もあり、相性が合わない可能性もある

国選弁護人は、弁護士会を通じて割り当てられます。そのため、経験豊富な弁護士が担当することもあれば、まだ若手の弁護士が担当することもあります。

弁護士の力量や経験は人それぞれです。依頼者の事件が複雑であるにもかかわらず、あまり経験のない弁護士が担当になった場合、十分なサポートが受けられないと感じる可能性もあるでしょう。

また、弁護士と依頼者の相性も重要です。話しやすい弁護士であれば相談もスムーズですが、冷たい対応をされると「頼りにならない」と感じてしまうこともあります。

国選弁護人は無料で依頼できる反面、弁護士を選べないリスクがあることを理解しておきましょう。

タイミングが遅いため、早期対応が重要

先ほども解説した通り、国選弁護人は逮捕直後には依頼できません。被疑者国選勾留後被告人国選起訴後と、どうしてもタイミングが遅れてしまいます。

刑事事件では、最初の取り調べの供述がその後の裁判に大きな影響を与えるケースが多いです。にもかかわらず、弁護士がつかないまま供述してしまうと不利になる恐れがあります。

そのため「できるだけ早く対応してもらいたい」と考えるのであれば、やはり私選弁護人を検討するべきです。費用はかかりますが、逮捕直後から助言を受けられる点は非常に大きなメリットです。

つまり、国選弁護人は「最低限の防御を確保する仕組み」であり、迅速性には限界があると理解しておくとよいでしょう。

国選弁護人の依頼方法と私選弁護人との違いを比較

ここでは、国選弁護人と私選弁護人を比較し、それぞれのメリット・デメリットを整理します。

費用負担:国選は安い、私選は費用がかかる

最大の違いは費用面です。国選弁護人原則無料で利用できるのに対し、私選弁護人自分で費用を負担する必要があります。

私選弁護人の費用は事件の内容によりますが、着手金だけで数十万円以上かかるのが一般的です。加えて成功報酬日当などが必要になる場合もあります。

一方、国選弁護人資力がない人を対象としているため、弁護士費用は国が負担してくれます。経済的な面では圧倒的に有利といえるでしょう。

ただし、前述のように示談金や一部実費は自己負担となるため、「完全無料」と誤解しないことが大切です。

選ぶ自由:私選なら好きな弁護士を選べる

私選弁護人の大きなメリットは自分で弁護士を選べることです。経験や実績を考慮して、信頼できる弁護士を探して依頼できます。

知人から紹介してもらったり、法律事務所の実績を調べたりして、自分に合った弁護士を見つけられるのは安心感があります。

一方で、国選弁護人は裁判所や弁護士会がランダムに割り当てるため、自分で選ぶことはできません。担当弁護士が自分に合わなくても基本的には変更できない仕組みです。

「費用がかかっても信頼できる弁護士を選びたい」と考えるなら、私選弁護人が適しているでしょう。

スピード:私選は迅速対応可能、国選は遅れがち

私選弁護人は依頼した瞬間から動いてくれます。逮捕直後でも接見に駆けつけ、取り調べに向けたアドバイスをしてくれるのが強みです。

一方、国選弁護人勾留後・起訴後でなければ依頼できません。そのため、逮捕から数日間は弁護士がいない状態で取り調べを受ける可能性があります。

刑事事件では「スピードが命」ともいえるため、この差は非常に大きいです。早期対応が必要なケースでは、国選弁護人に頼るだけでは不十分なこともあるでしょう。

このように、費用・選択の自由・スピードという3つの観点で比較すると、国選と私選の違いがはっきり見えてきます。

国選弁護人の依頼方法でよくある質問Q&A

ここでは、国選弁護人に関するよくある疑問をQ&A形式で整理します。

Q:依頼はいつでもできる?→A:勾留後または起訴後

逮捕直後には国選弁護人を依頼することはできません。勾留が決まった段階、または起訴後に希望を出すことで初めて依頼可能です。

したがって「逮捕されたからすぐ国選をつけてほしい」という希望は通りません。スピードを求める場合は私選弁護人の依頼が必要となります。

この点を誤解している人は多いため、事前に正しく理解しておきましょう。

つまり、国選は「いつでも使える制度」ではなく、条件とタイミングが決まっているのです。

Q:家族から依頼できる?→A:できない、本人のみ

国選弁護人の依頼は本人のみ可能です。家族や友人が代わりに申請することはできません。

刑事手続きは本人の意思に基づいて進めるのが基本だからです。家族が希望しても、本人が希望を出さなければ弁護士はつきません。

ただし、家族が私選弁護人を探して依頼することは可能です。すぐに動いてほしい場合は私選の利用を検討する必要があります。

この点を知らないと「家族が頼んでくれるだろう」と誤解してしまうので注意しましょう。

Q:費用は必ず無料?→A:原則無料だが、実費や示談金は別

国選弁護人の弁護士費用自体は無料ですが、実費や示談金は本人が支払う必要があります。

たとえば、証人の交通費証拠の取り寄せにかかる費用は、場合によって本人負担になることがあります。また、被害者との示談金は当然ながら自分で支払わなければなりません。

つまり「弁護士を雇うお金は国が負担してくれるが、それ以外の費用は別」と理解するのが正しいでしょう。

この仕組みを知らないと、あとで思わぬ出費が発生して驚くことになります。

Q:弁護士を変更できる?→A:原則できない

国選弁護人は一度割り当てられると、基本的に変更はできません。「相性が合わない」「頼りにならない」と感じても、すぐに別の弁護士に代えてもらうことは難しいのです。

ただし、弁護士に重大な過失がある場合など、例外的に変更が認められるケースもあります。しかしそれは非常に稀で、原則は「選べない・代えられない」と考えたほうが現実的です。

この制約が嫌だと感じるなら、最初から私選弁護人を探すほうが安心かもしれません。

つまり、国選弁護人は「最低限の権利を守る制度」であって、利便性や自由度は制限されると理解しておきましょう。

まとめ|国選弁護人の依頼方法・タイミング・費用・注意点を総整理

ここまで、国選弁護人の仕組みや依頼方法、費用、注意点について解説してきました。最後にポイントを整理します。

①国選弁護人は、資力が50万円以下の人が利用できる。依頼できるのは本人のみで、家族が代わりに申請することはできません。

②依頼できるタイミングは限られている。被疑者国選は勾留後、被告人国選は起訴後に依頼可能です。逮捕直後には利用できないため注意が必要です。

③弁護士費用は原則無料だが、実費や示談金は自己負担。完全無料ではない点を誤解しないようにしましょう。

④弁護士を選ぶ自由はなく、変更も基本的にできない。相性や経験は運による部分が大きいです。

⑤私選弁護人との違いは「費用・自由・スピード」。早期対応や信頼性を重視するなら私選を検討するのも選択肢です。

国選弁護人は、多くの人にとって「最後のセーフティネット」となる制度です。ただし、万能ではなく制約もあるため、メリットとデメリットを正しく理解することが大切ではないでしょうか。

もしご自身やご家族が突然刑事事件に関わることになった場合、この記事を参考にして冷静に判断してみてください。