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ひったくりで逮捕されたら?刑法・窃盗罪との違いと処分の流れを徹底解説

近年、街中や住宅街で発生する「ひったくり事件」は、依然として社会問題となっています。多くの場合、被害者は女性や高齢者で、日常の中で突然狙われるケースが少なくありません。

一見すると単なる「盗み」と思われがちですが、実は刑法上ではひったくりは非常に重い犯罪とされています。窃盗罪や強盗罪とどのように違うのか、そしてもし逮捕された場合にどんな処分を受けるのかを正しく理解することが大切です。

この記事では、ひったくりの定義から刑法上の扱い、逮捕後の流れ、初犯や再犯の場合の処分までを、法律の専門知識を踏まえてわかりやすく解説します。

ひったくりとはどんな犯罪?

まずは、ひったくりがどのような行為を指すのかを明確にし、その手口や発生しやすい環境を知っておきましょう。

ひったくりの定義と典型的な手口

ひったくりとは、歩行者などが持っているバッグや荷物を、すれ違いざまや追い抜きざまに奪い取る行為を指します。一般的にバイクや自転車を使うケースが多く、犯人が素早く逃走できるのが特徴です。

典型的な手口としては、夜道や人通りの少ない通りで被害者を狙い、バッグの持ち手をつかんで引きちぎるように奪う方法が多く見られます。暴行を加えずに盗み取る場合もありますが、抵抗された際に押し倒したり、引きずったりすることもあり、暴力的な要素を含むケースも少なくありません。

このように、ひったくりは単なる「盗み」よりも危険性の高い犯罪といえるでしょう。

発生しやすい時間帯と場所の特徴

警察庁の統計によると、ひったくりの発生は夕方から夜間(特に18時〜22時)に集中しています。帰宅途中や買い物帰りの人を狙う傾向が強いです。

また、発生場所として多いのは、人通りが少なく逃走しやすい道路や住宅街、または街灯が少ない裏道などです。特に、バイクで犯行に及ぶ場合は、広い道路に出やすいルートが選ばれることが多いとされています。

このような環境では、防犯カメラが少なく、目撃者も少ないため、犯人にとって「リスクの少ない場所」となってしまうのです。

被害者になりやすい人の傾向

被害者の多くは、バッグを道路側に持って歩いている人や、周囲への注意が薄い人です。特にスマートフォンを見ながら歩く「ながらスマホ」状態の人や、夜間に一人で歩く女性・高齢者が狙われやすい傾向があります。

また、肩から斜め掛けにしていないトートバッグや、簡単に引っ張れるショルダーバッグを持っている人も危険です。犯人は数秒でターゲットを選び、奪えると判断した瞬間に犯行に及びます。

したがって、「自分は大丈夫」と思わずに、防犯意識を常に持つことが重要ではないでしょうか。

ひったくりが刑法でどのように扱われるのか

ひったくりは刑法上、単なる窃盗ではなく、状況によって強盗罪や強盗致傷罪に問われることもある重大な犯罪です。その扱いの違いを詳しく見ていきましょう。

刑法第235条「窃盗罪」に該当する場合

暴行や脅迫が伴わず、単に他人の物を盗み取った場合は、刑法第235条「窃盗罪」が適用されます。

他人の財物を窃取した者は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
― 刑法第235条

つまり、相手に危害を加えずに盗み取っただけであっても、最高で懲役10年という重い刑罰が科せられる可能性があります。

ただし、犯行の態様や被害金額、前科の有無などによって量刑は変わるため、すべてが実刑になるわけではありません。

暴行を伴うと刑法第236条「強盗罪」になる

犯行の際に、被害者を押したり引きずったりして暴行を加えた場合は、窃盗ではなく「強盗罪」に問われることになります。

暴行又は脅迫を用いて他人の財物を奪った者は、5年以上の有期懲役に処する。
― 刑法第236条

このように、暴行や脅迫を伴うと、刑罰は一気に重くなります。窃盗罪と異なり罰金刑が存在せず、懲役刑のみとなる点にも注意が必要です。

実際の事件でも、ひったくりの最中に被害者が転倒してけがを負った場合、強盗罪として立件されることがあります。

けがをさせた場合は「強盗致傷罪」として重罪に

ひったくりの際に、被害者にけがを負わせた場合は、刑法第240条に定められた「強盗致傷罪」が適用されます。これは非常に重い罪であり、犯罪の中でも凶悪犯の分類に入るほどです。

強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処する。
― 刑法第240条

この条文からもわかる通り、被害者が転倒して骨折や打撲を負った場合でも、故意がなくても「強盗致傷罪」として扱われる可能性があります。つまり、けがを負わせる意図がなくても、「ひったくり行為中に発生したケガ」であれば、厳罰の対象となるのです。

無期懲役または6年以上という非常に重い刑罰が科せられるため、ひったくりの中でも最も重い罪に分類されると言えるでしょう。

特に高齢者や子どもを相手にした場合、社会的な非難も大きく、裁判でも情状酌量が認められにくい傾向にあります。

ひったくりと窃盗罪の違いとは?

ひったくりと窃盗は一見似た犯罪ですが、実は明確な違いがあります。ここでは、両者の違いと、さらに強盗罪との境界について整理していきます。

窃盗罪は「こっそり盗む」行為

窃盗罪は、他人の持ち物を相手に気づかれないように盗む行為です。たとえば、置き引きや万引き、自転車盗などがこれにあたります。暴力や脅迫を伴わないため、刑罰の重さも比較的軽いのが特徴です。

刑法第235条窃盗罪は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されますが、初犯や被害金額が小さい場合には、罰金刑や執行猶予が付くこともあります。

一方で、ひったくりは被害者がその場にいて、強引に奪う行為を伴うため、単なる「盗み」よりも危険性が高いと判断されます。

つまり、窃盗は「隠れて盗む」、ひったくりは「奪い取る」という行為の違いが、刑法上の区分を分ける重要なポイントとなるのです。

ひったくりは「力ずくで奪う」ため悪質とされる

ひったくりの場合、被害者の手元からバッグなどを力ずくで奪い取るため、暴力的な側面を含みます。たとえ暴行の意図がなかったとしても、結果的に相手に危険が及ぶため、社会的には悪質な犯罪とみなされます。

特に、被害者が転倒してけがを負うリスクが高いため、実際の裁判でも「犯行の危険性が高い」として量刑が重くなる傾向にあります。

また、ひったくりは瞬間的な衝動や金銭目的で行われることが多い一方で、「短時間で逃げ切れる」という安易な発想から犯行に及ぶケースもあります。しかし、ひとたび逮捕されれば、人生を大きく狂わせる結果になってしまうのです。

このような点からも、ひったくりは窃盗よりも悪質とされ、場合によっては強盗罪にまで発展する可能性があります。

強盗罪との境界は「暴行や脅迫の有無」で判断される

ひったくりと強盗罪の違いは、「暴行や脅迫の程度」で判断されます。暴行や脅迫が、被害者の反抗を抑える目的で行われた場合には、強盗罪が成立します。

つまり、奪い取る際に力を使って相手が抵抗できない状態にさせた場合、それは単なるひったくりではなく「強盗」とみなされるのです。

一方で、バッグの紐を引っ張る程度で暴行の意図がなく、被害者に直接危害が及ばなかった場合には、窃盗罪として扱われることがあります。この境界線は非常に微妙で、捜査機関や裁判所の判断によって変わることも少なくありません。

そのため、弁護士のサポートを受けて、自分の行為がどの罪に該当するのかを正確に把握することが大切です。

ひったくりで逮捕された場合の流れ

ひったくりで逮捕されると、警察から検察、そして裁判に至るまで、法的な手続きが進行します。ここでは、その一般的な流れを見ていきましょう。

現行犯逮捕・通報による逮捕のケース

ひったくりは犯行現場を目撃されやすく、現行犯逮捕されるケースが多い犯罪です。被害者や通行人の通報により、近くの警察官にすぐ捕まることも珍しくありません。

現行犯逮捕の場合、警察は即座に身柄を拘束し、所持品の検査や事情聴取を行います。逃走して後から防犯カメラなどで特定された場合は、後日通常逮捕となるケースもあります。

逮捕後は原則として48時間以内に検察へ送致され、検察官がさらに勾留請求を行うかどうかを判断します。

この段階で、弁護士が介入すれば、勾留を回避できる可能性もあります。したがって、早い段階で弁護士に連絡することが非常に重要です。

警察の取調べから検察送致までの流れ

逮捕後、警察は被疑者に対して取り調べを行います。ひったくり事件の場合、犯行の動機や経緯、共犯者の有無、奪った物の所在などを詳しく確認されます。警察での取調べは通常1日数時間に及び、調書の作成も進められます。

警察は逮捕後48時間以内に、事件を検察に送致する必要があります。この送致を「身柄送致」と呼び、検察官はその後24時間以内勾留請求を行うかどうかを判断します。

もし勾留が認められれば、被疑者は最大で10日間(延長でさらに10日、合計20日間)警察署や拘置所に留置されます。この期間中に、証拠収集や供述内容の確認などが行われます。

この段階では、弁護士が接見(面会)することが非常に重要です。弁護士は取調べでの注意点を助言し、身柄の解放や示談交渉などのサポートを行うことができます。

勾留・起訴・裁判の手続きの進み方

検察官が勾留を決定した場合、被疑者はさらに詳細な取り調べを受け、事件の全体像が整理されます。そのうえで、検察官が「起訴」するかどうかを判断します。

起訴されると裁判が開かれ、刑の重さを裁判所が決定します。ひったくりのような財産犯では、被害弁償や示談の成立が量刑に大きく影響します。

一方で、被害者が重傷を負っていたり、複数回の犯行が確認された場合は、実刑判決となる可能性が高くなります。初犯であっても、暴行を伴うケースでは執行猶予が付かない場合もあるため注意が必要です。

裁判では、犯行を認めて反省の態度を示すこと、そして被害者への誠意ある対応が評価される要素となります。

初犯の場合の処分はどうなる?

初めてひったくりを行った場合でも、状況によっては重い処罰を受ける可能性があります。ただし、被害が軽い場合や示談が成立した場合は、処分が軽減されることもあります。

被害が軽い場合は不起訴や執行猶予の可能性がある

ひったくりが初犯であり、被害金額が少額だったり、被害者がけがをしていない場合は、不起訴処分や執行猶予付き判決となるケースがあります。

検察官は、「社会的制裁を受けた」「反省している」「再犯の恐れがない」と判断すれば、起訴猶予(不起訴処分)とすることもあります。つまり、裁判にかけられずに済む可能性もあるのです。

ただし、これは被害者への謝罪や弁償が前提となります。被害者が処罰を望んでいる場合や、態度が反省していないと判断された場合は、起訴されることもあります。

いずれにせよ、早期の謝罪と誠意ある対応が重要なポイントになるでしょう。

被害弁償や示談が成立すれば処分が軽くなる

ひったくり事件では、被害弁償や示談の成立が極めて重要です。被害者に対して金銭的な補償を行い、許しを得ることで、検察や裁判所の判断が大きく変わります。

実際に示談が成立すれば、検察官は不起訴とするケースもあり、裁判でも「被害者の許しが得られている」として執行猶予がつくこともあります。

特に、弁護士が介入して示談交渉を行うと、適切な金額や文書の取り交わしがスムーズに進みます。独力での対応はトラブルの原因になるため、専門家の支援を受けるのが望ましいです。

示談金の目安はケースによって異なりますが、被害額の実損に加え、精神的な慰謝料として10〜50万円前後が支払われることが多いとされています。

前科を残さないために弁護士の支援が重要

ひったくり事件では、起訴されて有罪判決を受けると前科がつきます。前科は一生消えるものではなく、就職や社会復帰に大きな影響を及ぼします。

そのため、弁護士のサポートを受けて不起訴処分を目指すことが最も重要です。弁護士は被害者との示談交渉を代行し、検察に対して起訴猶予を求める弁護活動を行います。

また、裁判になった場合でも、反省文や被害弁償の実績を提出することで、執行猶予付き判決を得る可能性を高めることができます。

特に初犯の場合は、真摯な反省と再犯防止への努力を示すことで、社会復帰の道が開けるケースも多いのです。

再犯・常習犯の場合は刑罰が重くなる?

一方で、ひったくりを繰り返す常習犯や、過去に同様の犯罪歴がある場合は、刑罰が格段に重くなります。ここでは再犯時の扱いについて詳しく見ていきましょう。

常習累犯窃盗罪が適用されると刑期が長くなる

ひったくりを繰り返している場合、「常習累犯窃盗罪」(刑法第238条)が適用されることがあります。この罪が成立すると、通常の窃盗罪よりも刑が加重されます。

常習として窃盗を犯した者は、その罪をもって加重して処断する。
― 刑法第238条

この場合、量刑は懲役10年以上に達する可能性があり、執行猶予がつかないケースも多くなります。特に、過去に実刑判決を受けている場合は、再犯として非常に厳しく処罰されます。

つまり、同じひったくりでも「初犯」と「常習犯」では、処分の重さがまったく異なるのです。

執行猶予がつかない可能性が高くなる

再犯の場合、裁判所は「更生の見込みが薄い」と判断し、実刑判決を下すことが多くなります。特に、過去に執行猶予付き判決を受けていた場合、その猶予が取り消され、新たな刑が加算されることもあります。

このため、再犯では執行猶予が認められない可能性が高いのです。犯行の動機が生活苦や借金などであっても、同情の余地は限られます。

また、社会的信用の失墜や家族への影響も大きく、再犯者は社会復帰に大きなハードルを抱えることになります。

そのため、再犯防止のためには、カウンセリングや就労支援を受けるなど、環境改善への努力が欠かせません。

前科が多いと実刑判決になることが多い

過去に同様の犯罪歴が複数ある場合、裁判では量刑が大幅に重くなります。特に「常習性が高い」と判断されると、実刑判決の可能性が非常に高いです。

再犯を重ねるごとに社会的信用を回復するのは難しくなり、更生のためには時間とサポートが必要となります。

このような状況を防ぐためにも、初犯の段階で真剣に反省し、再犯防止の環境を整えることが最も重要だといえるでしょう。

まとめ|ひったくりで逮捕されたら?刑法・窃盗罪との関係を理解して冷静に対処しよう

ひったくりは、一瞬の出来心や軽い気持ちで行ったとしても、強盗罪や強盗致傷罪に発展する危険性のある重大犯罪です。被害者にけがを負わせた場合は、無期懲役の可能性もあります。

しかし、初犯であれば示談や被害弁償により、処分が軽くなることもあります。重要なのは、早期に弁護士へ相談し、誠実に対応することです。

また、再犯を防ぐためには、生活環境の見直しや社会復帰支援の利用も不可欠です。自分の行動を見つめ直し、再び同じ過ちを繰り返さないよう努めましょう。

法律を正しく理解し、冷静に対処することで、今後の人生を立て直す第一歩を踏み出せるのではないでしょうか。