日常の中の「もしも」に備える法律ノート

誤認逮捕されたらどうすべき?原因から正しい対処法まで徹底解説

突然、警察に声をかけられ「あなたを逮捕します」と言われたら、多くの人は驚きと恐怖で頭が真っ白になるでしょう。特に、自分にまったく身に覚えがない場合、そのショックは計り知れません。日本でも「誤認逮捕」は実際に起きており、誰もが被害者になる可能性があります。

本記事では、誤認逮捕の意味や原因、そして誤認逮捕に遭ったときに「絶対にやってはいけないこと」「まずやるべきこと」を具体的に解説します。さらに、弁護士への連絡方法や家族のサポート、名誉回復の手続きまで、実際に役立つ知識をまとめています。

「もし自分や身近な人が誤認逮捕されたらどうすればいいのか?」——その答えを、法律の観点からわかりやすくお伝えします。

誤認逮捕とは?なぜ起こるのかを知ろう

まずは「誤認逮捕」という言葉の意味と、なぜこのようなことが起こるのかを理解しておきましょう。誤認逮捕は単なる警察のミスではなく、構造的な問題や制度の限界が背景にあります。

誤認逮捕の意味と冤罪との違い

誤認逮捕とは、警察が誤って無実の人を犯罪の容疑者として逮捕してしまうことを指します。つまり、捜査段階で誤った判断がなされた結果、罪のない人が拘束されてしまうケースです。

似た言葉に「冤罪(えんざい)」がありますが、両者は厳密には異なります。誤認逮捕「逮捕時点での間違い」を指し、まだ裁判が始まる前の段階。一方、冤罪「裁判で有罪判決を受けた後に、実は無実だった」と後から判明するケースです。

つまり、誤認逮捕は冤罪の入口ともいえる状態であり、適切に対処しなければそのまま冤罪につながる危険があります。だからこそ、逮捕直後の対応が極めて重要なのです。

誤認逮捕の段階で冷静に行動できるかどうかが、人生を大きく左右することもあります。

誤認逮捕が起きる主な原因(人違い・証拠の誤用など)

誤認逮捕の多くは「人違い」「証拠の誤用」から生じます。例えば、防犯カメラの映像が不鮮明で、似た服装や体格の人が誤って容疑者と特定されることがあります。また、被害者や目撃者の証言が曖昧だった場合、記憶違いによって無関係の人が疑われることもあります。

さらに、警察が「この人が犯人に違いない」と思い込んでしまう“思い込み捜査”も要因のひとつです。初期の段階で誤った仮説が立てられると、その後の捜査や証拠集めもその前提に引きずられてしまいます。

また、科学的な証拠でさえ誤りが起きる場合があります。指紋鑑定やDNA鑑定でも、採取や分析の過程でミスが生じれば、まったく別人が容疑者として扱われる可能性もあるのです。

こうした一連の誤りが積み重なり、無実の人が逮捕される——これが誤認逮捕の典型的な構造です。

過去の事例から見る誤認逮捕のパターン

日本では、過去にも数々の誤認逮捕事件が報じられています。代表的なのは、2012年に発生した「PC遠隔操作事件」です。この事件では、インターネット掲示板犯罪予告を書き込んだとして4人が逮捕されましたが、のちに真犯人が別に存在することが判明し、全員が無実だったことがわかりました。

また、2018年には大阪で発生した「万引き誤認逮捕事件」も注目されました。スーパーで女性が万引きしたとされて逮捕されましたが、防犯カメラ映像を見直すと、実際には店員の誤認だったことが後に発覚しました。

こうした事例に共通するのは、初期捜査の段階での「確認不足」「思い込み」一度「犯人だ」と誤って決めつけられると、無実を証明するのは非常に困難になるという現実が浮き彫りになっています。

誤認逮捕は、誰にでも起こりうる身近な問題です。だからこそ、万が一のときの知識と冷静な対応が求められます。

誤認逮捕されたときに絶対やってはいけないこと

誤認逮捕に遭った場合、パニックに陥ってしまうのは当然です。しかし、取り乱した行動を取ってしまうと、状況をさらに悪化させる恐れがあります。ここでは、誤認逮捕時に「絶対にやってはいけない3つのこと」を具体的に解説します。

安易に供述をしてしまうこと

警察に連行された直後、多くの人は「早く誤解を解きたい」「無実を説明すればすぐ釈放される」と考えがちです。しかし、このタイミングで安易に話してしまうのは非常に危険です。

取り調べでは、警察官事件の筋書きをもとに質問を行います。その中で不用意に「たまたまその場所にいた」「よく似た服を持っている」といった発言をすると、捜査側に「やはり関与している」と誤解されるリスクがあります。

供述内容はそのまま調書に記載され、後の捜査や裁判重要な証拠となります。一度記録された発言を撤回するのは極めて困難です。したがって、弁護士が到着する前に詳しい話をするのは避けるべきです。

焦って話すよりも、まずは沈黙を守ることが自分を守る第一歩です。

供述調書に署名・押印すること

取り調べの終盤で警察官から「内容を確認して署名してください」と言われることがあります。ここで軽い気持ちで署名してしまうのも非常に危険です。

供述調書は、あなたの発言が正確に記録されているとは限りません。警察官の解釈や表現が混ざっていることも多く、微妙なニュアンスの違いが後の裁判で大きな影響を及ぼす場合があります。

もし調書の内容に少しでも違和感がある場合は、遠慮せず「この部分は違います」と訂正を求めることが大切です。また、弁護士が到着するまで署名や押印を拒否することもできます。

一度署名してしまえば、その内容があなたの正式な証言として扱われてしまうため、確認は慎重に行いましょう。

証拠隠滅・嘘を重ねること

無実を主張しようと焦るあまり、「自分を守るため」と思って嘘をついたり、証拠になりそうなものを処分してしまう人もいます。しかし、これは逆効果です。たとえ意図がなくても「証拠隠滅の疑い」として扱われ、罪が重く見られることになります。

また、小さな嘘であっても一度ついてしまうと、供述内容の信頼性が低下します。捜査側から「何か隠しているのではないか」と疑われ、結果的に釈放が遠のく可能性があります。

誤認逮捕のときこそ、正直かつ冷静に対応することが重要です。弁護士の助言を受けながら、法律に則った方法で事実を説明していくことが自分を守る最善の方法といえます。

嘘や隠し事は「身を守る行為」ではなく、「自分を追い込む行為」になりかねません。

誤認逮捕されたらまずやるべきこと

誤認逮捕に遭ってしまったら、まず落ち着いて行動することが何より大切です。ここからは、逮捕直後に取るべき3つの行動を順に紹介します。

警察官・検察官に弁護士を呼ぶことを伝える

逮捕された際、最初にすべき行動は「弁護士を呼んでください」と伝えることです。日本の法律では、被疑者には弁護士を依頼する権利(弁護人依頼権)が認められています。警察や検察はこの要請を拒否することはできません。

もし弁護士を知らない場合でも、国が指定する「当番弁護士制度」を利用できます。この制度を使えば、無料で弁護士が接見(面会)に来てくれる仕組みです。

弁護士が来るまでの間は、警察の質問に対して安易に答えず、「弁護士に相談してから話します」と伝えましょう。それがあなたの権利であり、最も安全な選択です。

弁護士を呼ぶことは「疑われている自分を守る」ための正当な行動です。

黙秘権を使って供述を控える

警察の取り調べでは、何かを話さなければいけないと感じる人が多いですが、それは誤解です。日本国憲法第38条により、誰も自己に不利益な供述を強制されることはありません。つまり、黙っていても罪には問われません。

誤認逮捕の場合、取り調べの内容が誤解や思い込みに基づいていることが多く、話せば話すほど不利になることがあります。黙秘権を行使することで、誤った供述調書を作られるリスクを減らせます。

ただし、完全に黙り込むのではなく、「弁護士と相談してから答えます」と丁寧に伝えるのがポイントです。警察官もあなたの権利を無視して取り調べを続けることはできません。

沈黙は逃げではなく、自分の権利を守るための強力な武器です。

可能なら証拠やアリバイの準備を考える

誤認逮捕から解放されるためには、自分が無実であることを証明する「客観的な証拠」が重要です。もし可能であれば、逮捕前の行動を思い出し、アリバイを裏付ける証拠を整理しておきましょう。

たとえば、スマートフォンの位置情報、交通系ICカードの利用履歴、防犯カメラ映像などが有力な証拠になります。また、当日の行動を知っている友人や同僚の証言も有効です。

これらの情報は、弁護士を通じて警察に提出することで、釈放や不起訴の判断につながる場合があります。焦らず、事実に基づいた証拠を確実に積み上げることが大切です。

「自分の潔白を証明する材料」は、早めに整理して弁護士に共有するのが鉄則です。

弁護士に連絡する際のポイントと伝えるべき情報

誤認逮捕に遭ったとき、弁護士はあなたの最も強力な味方です。しかし、ただ連絡するだけでは十分ではありません。どんな弁護士を選ぶか、何を伝えるか、どのように相談するかによって、その後の展開は大きく変わります。

弁護士を選ぶ基準(刑事事件に詳しいかなど)

誤認逮捕のケースでは、刑事事件に詳しい弁護士を選ぶことが絶対条件です。民事専門や離婚・相続分野の弁護士もいますが、刑事事件の対応には特殊な知識と経験が求められます。

弁護士の中には「刑事弁護に特化」した人がいます。警察とのやり取りや接見のスピード、取調べの戦略など、実践的なノウハウを持っているため、誤認逮捕事件に非常に強いです。

また、過去の実績や口コミも参考になります。弁護士会や「日本弁護士連合会(日弁連)」のサイトには、専門分野や連絡先が公開されているので確認してみましょう。

刑事事件に精通した弁護士を選ぶことは、誤認逮捕から抜け出すための第一歩です。

連絡時に伝えるべき事情(日時・場所・警察署名など)

弁護士に連絡する際には、できるだけ具体的な情報を整理して伝えることが重要です。たとえば、次のような内容を伝えましょう。

・逮捕された日時と場所
・どの警察署に連行されたのか
・何の容疑で逮捕されたのか(警察から聞いた内容)
・現時点での取調べ状況や警察官の対応

これらの情報を伝えることで、弁護士はすぐに接見の手配を行い、的確なアドバイスをしてくれます。特に警察署名と担当者の名前は、弁護士が迅速に動くために欠かせない情報です。

もし自分で話せない状況であっても、家族や友人にこれらの情報を伝えてもらうことができます。

弁護士は、あなたの情報をもとに「どう動くべきか」を判断します。だからこそ、正確で冷静な伝達が大切です。

弁護士との初回接見で確認すべき点

初回の接見では、焦って全てを話そうとせず、まず「現状を整理」することを心がけましょう。以下のポイントを弁護士と確認しておくと、今後の対応がスムーズになります。

・自分がどのような容疑で逮捕されたのか
・警察の主張内容と証拠の有無
・今後のスケジュール(送検・勾留の流れ)
・黙秘権や供述の注意点
・家族への連絡方法

弁護士は、法律の専門家としてあなたの権利を守る立場にあります。疑問点や不安がある場合は、どんな小さなことでも質問して構いません。特に「供述をどうすべきか」については、弁護士の指示を必ず仰ぐようにしましょう。

接見での会話は警察に聞かれることはなく、完全に守秘義務が適用されます。安心して本音を話して大丈夫です。

家族や友人に助けを求めるときの注意点

誤認逮捕は本人だけでなく、家族や友人にも大きな負担を与えます。しかし、正しい手順を知っていれば、周囲の人が大きな助けになります。ここでは、家族・友人ができる支援と注意すべき点を整理します。

連絡が許されるタイミングと制限(逮捕直後は72時間面会不可など)

逮捕直後は、家族や友人と自由に連絡を取ることはできません。原則として、逮捕から最大72時間「身柄拘束中」となり、弁護士以外との面会が制限されます。これは、証拠隠滅や口裏合わせを防ぐための措置です。

ただし、弁護士を通じて家族に「安否確認」や「事実関係の伝達」をしてもらうことは可能です。また、勾留が決定した後は、一定の条件のもとで家族との面会や差し入れが認められることもあります。

最初の72時間は弁護士だけが面会できる——このルールを理解しておくと、家族も冷静に対応できます。

差し入れできる物とできない物の違い

家族や友人ができる支援のひとつに「差し入れ」があります。ただし、何でも差し入れできるわけではありません。警察署や拘置所によって細かいルールがあります。

一般的に差し入れ可能なのは、現金・衣類・日用品(下着やタオルなど)・書籍などです。一方、食品類や刃物、通信機器(スマホ・USBメモリなど)は禁止されています。

また、現金を渡す際は「差し入れ用封筒」に入れて、警察署の窓口で手続きを行います。差し入れ品の内容はすべて警察官が確認するため、透明な袋に入れて渡すのが基本です。

支援の気持ちは大切ですが、ルールを守ることでスムーズなやり取りが可能になります。

家族ができる支援と注意すべき発言・行動

家族や友人は、逮捕された本人の精神的な支えとなる存在です。ただし、誤った発言や行動が状況を悪化させることもあります。

例えば、警察への直接的な抗議やマスコミへの情報提供は慎重に行うべきです。感情的な対応を取ると、捜査側との関係が悪化するリスクがあります。代わりに、弁護士を通じて冷静に意見を伝える方が効果的です。

また、SNSなどで「無実を訴える投稿」をするのも危険です。誤解を招いたり、裁判で不利になることがあります。情報発信は必ず弁護士と相談したうえで行いましょう。

家族の冷静な行動こそが、本人を守る最大の支援になります。

取り調べでの対応方法と黙秘権の使い方

取り調べは、誤認逮捕された人にとって最も精神的に厳しい時間です。ここでは、取り調べの際に注意すべき対応方法と、黙秘権を上手に使うコツを解説します。

黙秘権とは何か・いつ使えるか

黙秘権とは、自分に不利益なことを話す義務がない権利のことです。警察や検察の取り調べで質問された際も、「話さない」という選択をすることができます。

黙秘権は逮捕直後から行使可能であり、どの段階でも撤回したり再び使ったりできます。つまり、「最初は話したが、途中から黙秘する」ことも可能です。

誤認逮捕のようなケースでは、警察が誤った前提で質問をしている可能性が高いため、むやみに話すより黙秘を選ぶほうが安全です。後に弁護士と相談して、必要な情報だけを整理して伝えるようにしましょう。

「沈黙」は罪ではなく、法が保障する正当な権利です。

取調べでの質問への対応の基本ルール

取り調べの場では、警察官がさまざまな角度から質問を投げかけてきます。その目的は「供述の矛盾点を見つけること」であり、無意識のうちに誘導されるケースもあります。そのため、誤認逮捕の場合は特に冷静に対応することが大切です。

まず意識すべきは、質問に対して「はい」「いいえ」だけで答えないことです。曖昧な答えは誤解を招き、警察の解釈で不利な調書を作られる可能性があります。事実関係が曖昧な場合は、「わかりません」「覚えていません」と正直に伝えることが大切です。

また、取り調べの中では警察官が「認めた方が楽になる」「今言えばすぐ帰れる」などと心理的に圧力をかけることもあります。しかし、こうした言葉に惑わされて安易に認めてしまうと、後で取り返しがつかなくなります。

警察官の言葉をうのみにせず、常に「弁護士に確認してから答える」という姿勢を保つことが、最も安全な対応です。

供述調書の読み合わせと訂正申入れの方法

取り調べが終わると、警察官は「供述調書」と呼ばれる文書を作成します。これは、あなたが話した内容をもとに作られるものですが、実際には警察の解釈が多分に含まれることがあります。そのため、読み合わせの際には細心の注意が必要です。

調書を読む際は、文末の表現や細かな言い回しまで確認しましょう。もし少しでも違うと感じたら、「この表現は違います」「ここは削除してください」とはっきり伝えて構いません。警察官に遠慮する必要はありません。

訂正を求めたにもかかわらず、「これは大した違いではない」「後で修正します」と言われた場合でも、その場で署名・押印をしてはいけません。あなたの同意のないまま調書が完成してしまうと、後で訂正するのは極めて難しくなります。

供述調書は「あなたの証言そのもの」になります。納得できない内容には絶対に署名しない、という強い姿勢を持ちましょう。

釈放・不起訴・冤罪の流れを理解しよう

誤認逮捕に遭ってしまっても、すぐに「犯罪者」と決まるわけではありません。逮捕から釈放、そして不起訴・無罪に至るまでの流れを理解しておくことで、自分が今どの段階にいるのか、何をすべきかが明確になります。

逮捕後の送検・勾留請求の流れ

警察に逮捕されると、原則として48時間以内検察庁へ送られます。これを「送検」と呼びます。検察官は、警察から送られてきた資料をもとに、さらに10日間の「勾留請求」を行うかどうかを判断します。

勾留が認められると、最大で20日間身柄を拘束されることになります。その間、警察や検察による取り調べが続きますが、弁護士の接見は何度でも可能です。弁護士は、あなたの釈放や不起訴を求めて活動してくれます。

つまり、誤認逮捕においても、この期間が非常に重要です。早い段階で弁護士に依頼し、誤りを正すための証拠やアリバイを整理しておくことが、釈放につながる大きな鍵になります。

「逮捕された=有罪」ではありません。勾留中の行動が、後の結果を大きく左右します。

不起訴になるケースとその意味

勾留期間中に弁護士の働きかけ証拠の提示が功を奏し、「嫌疑不十分」と判断されると、検察は不起訴処分を下します。これは、「犯罪の証拠が不十分である」「罪を立証できない」と判断された場合に出される結論です。

不起訴になれば、身柄は即時解放され、前科もつきません。つまり、法律上は「何の罪もない状態」に戻ります。ただし、報道などで名前や顔が出ていた場合、その社会的影響は残ることがあり、後で名誉回復の手続きが必要になることもあります。

不起訴は「無実が証明された」わけではなく、「立証ができなかった」という判断である点も理解しておきましょう。そのため、完全な名誉回復を望む場合は、弁護士と相談して「不起訴理由告知書」などを請求することが推奨されます。

不起訴処分は、誤認逮捕から抜け出すための大きな一歩です。

裁判での無罪・冤罪として認められるまでの流れ

もし検察が「起訴」を決定した場合、事件は裁判に進みます。この段階では、弁護士証拠の不備警察の誤認を指摘し、無罪を主張します。裁判の中で無罪判決が出れば、正式に「冤罪」として認められます。

ただし、日本の刑事裁判では、有罪率が99%を超えるとも言われています。それほどまでに無罪を勝ち取るのは難しく、根拠のある証拠と強力な弁護活動が不可欠です。

一方で、誤認逮捕が明らかになった場合には、検察側が途中で「公訴取り下げ」を行うケースもあります。この場合も無罪と同様に扱われ、即座に釈放されます。

裁判での無罪はゴールであると同時に、名誉回復の第一歩でもあります。

誤認逮捕後の名誉回復と損害賠償の手続き

誤認逮捕によって社会的信用や仕事、家族関係を失ってしまう人も少なくありません。無実が証明された後は、名誉回復と損害賠償の手続きを取ることが可能です。ここでは、その具体的な流れを見ていきます。

刑事補償法・被疑者補償・被疑者補償規程とは何か

誤認逮捕によって不当に拘束された場合、「刑事補償法」に基づいて国から補償を受けることができます。これは、国が誤って身柄を拘束した人に対して支払う補償金で、1日あたり1,000円〜12,500円程度が支給されます。

また、裁判を経ずに不起訴となった場合には、「被疑者補償規程」に基づき補償を請求できます。この場合も、勾留日数に応じて一定額が支払われます。

申請は弁護士を通じて行うのが一般的で、決定までは数週間〜数か月かかることがあります。

誤認逮捕による時間的・精神的な損失は、国が正式に補償する制度でカバーされます。

国家賠償請求・損害賠償請求の条件とハードル

誤認逮捕により、職を失ったり、社会的な信用を大きく損なった場合には、「国家賠償請求」を行うことも可能です。これは、警察官や検察官などの公務員が違法な行為を行った場合に、国や地方公共団体に対して損害賠償を求める制度です。

ただし、国家賠償請求を成立させるには、「公務員の違法行為」または「重大な過失」があったことを証明しなければなりません。単なる誤認やミスではなく、「合理的な根拠がないのに逮捕した」など、明確な違法性を立証する必要があります。

この点が非常に難しく、実際に賠償が認められるケースは多くありません。そのため、国家賠償請求を行う際には、専門的な法的知識を持つ弁護士と綿密に相談し、証拠をしっかりと集めることが欠かせません。

また、損害賠償の対象には、失職による収入の損失、名誉毀損、精神的苦痛、さらには報道による社会的影響などが含まれます。精神的被害に対しては「慰謝料」として請求することも可能です。

国家賠償請求はハードルが高いものの、誤認逮捕の被害を社会的に認めさせるための重要な手段です。

プレスリリース・報道訂正・名誉回復措置の方法

誤認逮捕が報道されてしまった場合、名前や顔写真が世間に広まり、たとえ釈放・無罪となっても偏見が残ることがあります。そのため、名誉を回復するための行動も必要です。

まず検討すべきは、「報道訂正」や「削除依頼」です。報道機関やニュースサイトに対して、誤報や過剰な報道があった場合には、訂正や記事の削除を求めることができます。これは弁護士を通じて正式に申し入れることで、対応してもらえる可能性があります。

また、被害者側からプレスリリース(声明文)を発表する方法もあります。誤認逮捕が明らかになった経緯や無罪が確定したことを公表することで、誤解の払拭や社会的信用の回復を図ります。

さらに、重大な人権侵害があった場合には、「人権救済申立て」日本弁護士連合会に提出することも可能です。この制度は、国家機関の行為によって名誉が傷つけられた人を救済するための制度です。

誤認逮捕で失われた名誉は、法的手段と情報発信の両面から取り戻すことができます。

誤認逮捕を防ぐために普段からできること

誤認逮捕は、いつ誰に起こっても不思議ではありません。だからこそ、日常生活の中で「自分を守る準備」をしておくことが大切です。ここでは、誤認逮捕を未然に防ぐためにできる3つの習慣を紹介します。

本人確認を徹底する(ID・写真記録の活用など)

誤認逮捕の原因の多くは「人違い」です。見た目や服装が似ているだけで誤って逮捕されてしまうことがあります。そのため、普段から自分の身元を証明できるものを携帯しておくことが重要です。

たとえば、運転免許証やマイナンバーカードなどの公的身分証明書を常に持ち歩くようにしましょう。特に、夜間や人通りの少ない場所では身分確認がしやすいことが誤認防止につながります。

また、スマートフォンで日々の行動記録(GPSや写真)を残しておくのも有効です。これが後に「アリバイ」として役立つこともあります。

身分証と記録は、自分の無実を証明する“盾”になります。

防犯カメラ・証拠の記録を意識する習慣を持つこと

現代社会では、防犯カメラやスマートフォンの映像が重要な証拠になるケースが増えています。誤認逮捕を防ぐためには、「自分を守る記録を意識的に残す」習慣が有効です。

たとえば、出先や移動中の行動を写真や動画で記録しておくことで、万が一疑われた際にアリバイとして活用できます。また、公共交通機関を利用した際のICカード履歴も、動きの証拠として役立ちます。

さらに、自宅や店舗に防犯カメラを設置するのもおすすめです。映像が第三者的な証拠として残るため、不当な疑いを晴らすうえで強力な証拠になります。

「自分を守る証拠を日常的に残す」ことが、最大のリスクヘッジになります。

法律知識・弁護士連絡先をあらかじめ用意しておくこと

誤認逮捕は突然起こるものです。だからこそ、いざというときの準備が命を守ります。特に重要なのが、「信頼できる弁護士の連絡先」を事前に控えておくことです。

スマートフォンの連絡先やメモ帳に、弁護士の電話番号を登録しておくことで、万が一の際にすぐに助けを求められます。また、家族にもその連絡先を共有しておくと安心です。

さらに、基本的な法律知識を身につけておくことで、警察からの質問に冷静に対応できます。インターネットや弁護士会が発行するパンフレットなどで、黙秘権や弁護人依頼権について学んでおくのも良いでしょう。

「備えあれば憂いなし」。事前の準備こそが、自分と家族を守る最大の力になります。

まとめ:誤認逮捕されたらやることと正しい対処手順

誤認逮捕は、誰にでも起こり得る現実的な問題です。しかし、正しい知識と冷静な対応を身につけておけば、被害を最小限に抑えることができます。

まず大切なのは、「安易に供述しない」「供述調書に署名しない」「嘘をつかない」という3つの原則を守ること。そして、すぐに弁護士を呼び、黙秘権を行使して自分の権利を守ることです。

家族や友人も、感情的にならず、弁護士を通じて冷静に支援する姿勢が求められます。釈放後は名誉回復のための手続きや損害賠償請求を行い、再発防止に向けた備えを整えましょう。

誤認逮捕を完全に防ぐことは難しいかもしれません。しかし、「もしものときの知識」を持っているかどうかで、人生を守れるかどうかが大きく変わります。

自分の権利を知り、冷静に行動すること。それが、誤認逮捕から身を守る最も確実な方法です。