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未成年者誘拐罪・略取罪とは?成立要件と実例でわかりやすく解説

未成年者誘拐罪(未成年者略取・誘拐罪)は、子どもを連れ去る行為を刑事罰の対象とする重要な犯罪です。しかし、「同意があれば罪にならないのか」「親が子を連れ戻すのは合法か」など誤解も多くあります。この記事では、成立要件、略取との違い、判例を交えつつ、具体的なケースでの判断基準まで、丁寧に説明します。

未成年者誘拐罪(略取誘拐罪)の構成を理解するには、「対象年齢」「手段」「実力支配」「未遂」をひとつずつ押さえることが重要です。また、略取罪・誘拐罪の違いや「同意」の扱いも法律構成上、悩ましいテーマとなります。

本記事を読み進めれば、未成年者誘拐罪・略取罪の本質、よくある誤解、判例での判断のポイントまで、実務的な視点から理解できるようになります。

未成年者誘拐罪の成立要件とは?基本的な定義とポイントを解説

この章では、未成年者誘拐罪(未成年者略取及び誘拐罪)が成立するために必要となる構成要件を順に見ていきます。各要件を正しく理解することは、違法性・構成該当性の判断に不可欠です。

未成年者誘拐罪とは何か? — 略取との共通点も含めて

日本の刑法第224条は、未成年者を略取または誘拐した者を処罰する条文です。現行規定では、3か月以上7年以下拘禁刑が科されることとされています。

ここでいう「略取」「誘拐」は、手段や態様が異なるが、本罪のなかで併記されており、両者をまとめて扱うことが多いです。略取は暴行・脅迫等で強制的に連れ去る手段を指すことが多く、誘拐は騙し、詐術、誘惑的手段など、被害者の自由意志を制約する形で移動させる行為を指すことがあります。

なお、「未成年者誘拐罪」は通称であり、法律上は「未成年者略取及び誘拐罪」と称されます。

要件1:対象が「未成年者」であること

最初の要件は、被拐取・誘拐される者が「未成年者」であること。民法の成年年齢引き下げ(2022年法改正)に伴い、未成年者の定義が18歳未満となっているため、本罪の被害者も原則として18歳未満の者が対象と考えられます。

ただし、施行や解釈の過渡期においては、20歳未満を対象としていた従前の文献を参照する場合もあります。

非常に重要な点ですが、この要件を満たさない(たとえば成人を連れ去った)場合は、未成年者誘拐罪は成立せず、別の犯罪類型が検討されます。

要件2:略取または誘拐という手段を用いること

被害者を、略取または誘拐するという手段が用いられることが要件です。単に誘導や同行の要請のみで移動させるのでは不十分なことがあります。

略取とは、暴行・脅迫など強制的手段を用いて被害者を離脱・移動させる行為を指すことが一般的です。

誘拐とは、詐術・誘惑・欺罔など、相手の自由意志をなんらかの形で制限して移動させる行為を指す場合が多いです。

ただし、どのような手段であっても、結果的に被害者が支配下に置かれ移動させられたと認められれば、略取・誘拐と判断されうる可能性があります。

要件3:実力支配・移転の要素(被害者を支配下に置くこと)

単に誘導して移動させただけでは、未成年者誘拐罪と認められない場合があります。その移動の中で、実力支配をもって被害者を制約し、移転が伴うことが必要とされます。

つまり、被害者を監視・制限できる状態に置くこと被害者が容易に離脱し得ない状態に置かれることが要素となります。

この点が成立要件の核心部分でもあり、実際の事件では「どの時点で支配下に置かれたか」「支配から逃れる余地があったか」が争点となることが多いです。

要件4:未遂犯罪を含むこと

未成年者誘拐罪は未遂犯罪も処罰されます(刑法第228条)

つまり、被害者を実際に移動させようとした、あるいは支配下に置こうとしたが途中で未遂に終わった場合でも、処罰の対象となります。

この性質は、実務上「一歩手前で挫折した行動」であっても法的評価がなされる余地があることを意味します。

法定刑と親告罪性 — 告訴できる主体と刑罰範囲

法定刑を見ると、現在の規定では未成年者略取・誘拐罪の法定刑は「3か月以上7年以下の拘禁刑」とされています。

なお、「拘禁刑」とは、懲役または禁錮のいずれかにより身体の自由を制限される刑罰を指します。

また、過去には未成年者略取・誘拐罪は親告罪(告訴がなければ起訴できない)であるとされていました。

しかし、刑法改正・判例の流れの中で、必ずしも親告罪扱いが維持されるとは限らない見解もあります。従って、告訴できる主体(被害者本人、保護者等)や告訴期間なども争点となることがあります。

未成年者誘拐罪の成立要件と略取の違いを簡単に理解しよう

この章では、略取罪・誘拐罪の法條関係、手法・目的・量刑の違いを、整理して簡単に理解できるように説明します。

略取罪・誘拐罪の法定条文(刑法224条など)

未成年者略取及び誘拐罪は、刑法第224条に規定されています。また、より重大な目的(営利目的、わいせつ目的、身代金目的など)を有する場合には、刑法第225条の規定が適用され、1年以上10年以下の拘禁刑とされることがあります。

略取と誘拐の手法の違い ― 強制性・脅迫・詐術など

略取は強制力(暴行・脅迫)を伴う連れ去りが典型とされるのに対し、誘拐では詐術や誘惑、欺罔などを用いて被害者を連れ去る場合が典型となります。

ただし、実務上はこの線引きが必ず明確というわけではなく、誘拐手段でも被害者の自由を制約し実力支配があれば略取と同様に扱われることもあります。

目的の違い ― 営利目的、わいせつ目的、身代金目的など

被拐取・誘拐行為が営利目的、わいせつ目的、身代金目的、生命・身体に対する加害目的を持つ場合には、刑法第225条の適用が検討され、より重い刑罰が科されることがあります。

たとえば、13歳少女をわいせつ目的で誘拐した事件では、長崎地裁で懲役3年、執行猶予5年の有罪判決が出されたというニュースがあります。

13歳の少女をわいせつ目的で誘拐したなどとして不同意性交等の罪などに問われていた男に、長崎地裁は14日、懲役3年執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。
引用:TBS NEWS DIG(2024年)

このように、目的がわいせつであることが情状悪化要因となり得ます。

量刑・処罰の違い・解釈の違い

通常の未成年者誘拐罪(224条)では、3か月以上7年以下の拘禁刑ですが、目的型の誘拐(225条)では、1年以上10年以下とより重い刑罰が定められています。

また、裁判所・検察段階で、被疑者の態様・動機・手段・被害者との関係性などを総合考量し、刑の選択・加重・減軽が判断されます。

未成年者誘拐罪の成立要件における「同意」の扱いとは?

未成年者誘拐罪を理解するうえで多くの人が誤解しやすいのが、「本人が同意していれば罪にならないのでは?」という点です。この章では、同意の有無と犯罪成立の関係について、法律の立場から解説します。

被害者本人の「同意」がある場合はどうなるか?

成人の場合、本人が自由な意思で同行したなら「誘拐罪」は成立しません。しかし、未成年者の場合は事情が異なります。たとえ本人が「一緒に行く」と同意していたとしても、その意思が十分な判断能力に基づいていなければ、誘拐罪が成立する可能性があります。

特にSNSなどで知り合った相手と「家出」目的で同行したケースでは、表面的な同意があっても、相手方の意図が支配・連れ去りに向いている場合には処罰対象になることがあります。

未成年者には意思能力の制限があるという前提

未成年者は、法的に判断能力が十分でないとみなされるため、本人の同意に法的効力があるとは限りません。これは、刑法だけでなく民法の原則とも一致します。

したがって、たとえ被害者が「自分で行った」と主張しても、裁判所はその意思形成の自由が保たれていたか、誘導や心理的支配がなかったかを厳密に審査します。

16歳未満では例外的に同意があっても誘拐扱いになるケース

裁判例の中には、被害者が16歳未満である場合、本人の同意があっても「誘拐罪」が成立すると判断されたケースがあります。

たとえば、被告人がSNSで知り合った15歳少女を「家出支援」と称して自宅に滞在させた事件では、少女が自発的に同行したとしても「未成年者誘拐罪が成立」とされた例があります。

大阪府内で15歳の少女を自宅に連れ込み3日間滞在させたとして、未成年者誘拐の罪に問われた男に対し、大阪地裁は懲役1年6か月、執行猶予3年の判決を言い渡しました。少女は「自分の意思で行った」と供述していましたが、裁判所は「保護者の監護権を侵害した」として有罪としました。
引用:朝日新聞デジタル(2024年5月20日)

このように、未成年者の同意は親権者の監護権を超えられないという点が、重要な判断基準となります。

監護者(親など)の同意・承諾との関係

未成年者誘拐罪は、被害者本人の意思だけでなく、保護者(親権者・監護者)の同意があるかどうかも大きく影響します。

親の同意があれば、誘拐罪が成立しないケースもあります。たとえば、祖父母が親の了承を得て孫を一時的に預かったような場合には、通常は犯罪にはなりません。

しかし、親権者の意思に反して子を連れ出した場合には、たとえ血縁者でも誘拐罪に問われることがあります。

未成年者誘拐罪の成立要件と略取に関する代表的な判例を紹介

ここでは、最高裁判例や近年の判決から、未成年者誘拐罪・略取罪に関する実際の判断基準を紹介します。実務では、同意・監護権・支配の要素がどのように評価されるかが焦点になります。

最高裁判例:実子誘拐事件(祖父母等による誘拐) — 実力支配や同意の判断例

祖父母などの親族による子の連れ去りが「未成年者誘拐罪」にあたるかどうかは、長年議論がありました。最高裁平成15年1月17日判決(実子誘拐事件)では、親権者の監護権を侵害する意図がある場合には親族でも罪が成立すると判示されました。

この判決により、「家族間だから罪にならない」という考え方は否定され、監護権を尊重する方向に解釈が確立しています。

略取・誘拐で執行猶予が認められた判例の傾向

略取や誘拐であっても、被害者に実害が少なく、再犯の恐れが低い場合には、執行猶予が認められる傾向も見られます。

ただし、動機がわいせつや営利である場合は、執行猶予がつかない厳しい判断が下されることが一般的です。

わいせつ目的誘拐で重罰となった判例例(13歳少女誘拐事件など) — 実例ニュースも交えて

近年のわいせつ目的誘拐では、SNSを介した事案が増加しています。加害者が被害者に「助けてあげる」などと接近し、結果的に連れ去るケースが典型です。

2025年3月、愛知県で13歳の少女を車に乗せて県外へ連れ出した男が、未成年者誘拐の疑いで逮捕されました。少女はSNSで男と知り合い、「家に行きたい」と連絡していたといいます。警察は「本人の同意があっても誘拐に該当する」としています。
引用:NHKニュース(2025年3月10日)

このように、SNSを介した未成年者誘拐は、本人の「同意」があっても厳格に処罰される方向にあります。

未成年者誘拐罪と略取の違いが問われた具体的な事例とは

この章では、現代社会で頻発しているSNSや家庭内トラブルに関連する誘拐事例を通して、略取との違いを具体的に理解していきましょう。

SNS経由で誘導して未成年者と“同意”で連れ出したケースの解釈

Twitter(現X)やLINEなどを通じて、家出志願の未成年者と接触し、車や宿泊施設に連れ込む事件が全国で発生しています。この場合、本人が「自分の意思で行った」としても、監護権を侵害した時点で誘拐罪が成立します。

SNS上では「助けただけ」「保護しただけ」と主張する加害者も多いですが、裁判所は「実質的な支配・監護の奪取」を重視しており、処罰を免れることは困難です。

別居中または親権争い中の子を連れ去ったケース — 親による誘拐成立性

離婚や別居をめぐる親権争いの中で、片方の親が子を連れ去る行為が問題となることがあります。このような場合でも、親権者でない側が相手方の監護下にある子どもを無断で連れ出した場合、未成年者誘拐罪が成立すると判断されるケースがあります。

たとえば、家庭裁判所で監護権が母親にあると定められているにもかかわらず、父親が子どもを連れ出して隠匿した場合、親であっても「監護権の侵害」として刑事責任を問われることがあります。

東京高裁は2023年、別居中の父親が保育園から子どもを連れ出した事件で、「監護権を有しない者による連れ去りは未成年者誘拐罪にあたる」として有罪判決を維持しました。裁判所は「親であっても監護権を侵害すれば違法」と明言しています。
引用:読売新聞オンライン(2023年10月15日)

このような判例は、家庭内のトラブルであっても刑事的評価を免れないことを示しています。

強制・脅迫を伴った誘拐事件(身代金目的含む)と量刑の現実例

強制・脅迫を伴う誘拐は、刑法上でも特に重い罪とされます。被害者の自由を奪うだけでなく、身体的・精神的苦痛を与えるため、裁判では実刑判決となるケースが大半です。

2025年2月、千葉県で男子高校生を車に押し込み現金を要求したとして、男女3人が逮捕されました。警察は「身代金目的の未成年者略取」として捜査しており、被害者は一時監禁されていたといいます。
引用:NHKニュース(2025年2月20日)

身代金目的の誘拐(刑法225条)は、法定刑が無期または3年以上の拘禁刑と定められており、非常に重い処罰対象です。こうした犯罪は、社会的にも強い非難を受けることになります。

足利幼女誘拐殺人事件など、誘拐から殺害に至った極端例

日本の刑事事件史上でも象徴的なのが「足利幼女誘拐殺人事件」です。この事件は、1980年代後半に幼女を誘拐・殺害したとされるもので、長期にわたる誤認逮捕・冤罪問題にも発展しました。

この事件を通して、警察の捜査手法や証拠管理、そして社会全体の「誘拐」という犯罪への意識が大きく変化したとされています。

未成年者誘拐が殺人などの重大犯罪に発展するリスクを示す代表例であり、社会的にも法的にも重く受け止めるべき事件です。

未成年者誘拐罪の成立要件を満たすケースと満たさないケースの違い

ここでは、どのような場合に未成年者誘拐罪が成立するのか、逆に成立しないのはどんなケースなのかを、わかりやすく整理します。

成立する典型例:被害者を無理やり連れ出すケース

もっとも典型的な成立例は、暴行や脅迫を用いて未成年者を連れ去るケースです。被害者が抵抗できない状態で移動させられた場合、明確に実力支配が認められます。

また、物理的な暴行がなくても、脅しや威圧的言動によって自由を奪う行為も略取・誘拐に該当します。

成立しない例1:被害者が自発的に出て行ったケース(誘拐意図なし)

本人が自分の意思で家を出た場合、相手方が連れ出した事実がなく、誘拐の意図が認められなければ罪は成立しません。

ただし、同行後に監禁・強制的支配に移行した場合は、そこから先が誘拐として評価されることもあります。

成立しない例2:親の許可・承諾があったケース(状況次第で無罪)

親や監護者の承諾がある場合には、基本的に監護権の侵害がなく、誘拐罪は成立しません。

たとえば、親の了解を得て子どもを預かった場合などがこれに該当します。ただし、その後に目的を逸脱(わいせつ行為や逃避支援など)すれば、別罪が成立するおそれがあります。

成立しない例3:被害者が容易に逃げられる状態だったケース

被害者が自宅や公共の場所で自由に行動できる状態にあり、支配関係がなかった場合、誘拐罪は成立しないとされています。

裁判所は「実力支配」の有無を非常に重視しており、単に一緒にいたというだけでは構成要件に該当しないのです。

未成年者誘拐罪の成立要件と略取に関するよくある誤解

インターネットやSNSでは、未成年者誘拐罪について誤解が多く広がっています。ここでは代表的な誤解を整理し、正しい理解を促します。

「本人が同意していれば誘拐にならない」は誤り

前述のとおり、未成年者には十分な判断能力がないとみなされるため、同意があっても誘拐罪が成立することがあります。

特にSNS経由での「家出支援」などは、本人が望んでも違法行為とされることが多いです。

「親が子を連れ戻していい」は必ずしも合法ではない誤解

親であっても、監護権を有しない側が相手方の監護下にある子を連れ戻せば、未成年者誘拐罪が成立します。

家庭内問題であっても、刑事事件として扱われるケースがあるため注意が必要です。

「軽い連れ去りなら罪にならない」は誤り — 未遂も処罰対象

未成年者誘拐罪は未遂でも処罰対象です。たとえ一時的な接触や移動であっても、意図が支配・監護の奪取に向いていれば罪が成立します。

量刑が軽いという誤解 — わいせつ目的・営利目的で加重もありうる

「7年以下だから軽い」と思われがちですが、目的によっては刑法225条が適用され、10年以上または無期刑となることもあります。

とくにわいせつ・営利・報復など悪質な動機がある場合、量刑は極めて重くなる傾向です。

まとめ|未成年者誘拐罪の成立要件と略取の違いを具体例で理解しよう

未成年者誘拐罪は、「未成年者」「略取・誘拐」「支配・移転」「監護権の侵害」という複数の要素によって構成されます。被害者の同意があっても、保護者の権利を侵害した場合には罪が成立します。

略取は強制的手段、誘拐は欺罔や誘惑的手段という違いがありますが、いずれも結果的に被害者が自由を奪われた状態に置かれれば同様に処罰されます。

現代ではSNSを介した「同意型」誘拐が増えており、本人が自らついていった場合でも違法と判断される例が多くなっています。

「同意があれば大丈夫」「家族なら問題ない」という思い込みは非常に危険です。監護権を侵害した時点で刑事責任が生じることを理解しておきましょう。

最終的に、未成年者誘拐罪は「保護すべき子どもの安全と親の監護権を守るための犯罪」であり、その成立要件を正しく理解することが、予防にも社会的責任にもつながるのではないでしょうか。